摂食障害(拒食症)のカウンセリング治療は、淀屋橋心理療法センターにある「摂食障害専門外来」で行っております。
(大阪府豊中市寺内2丁目13-49 TGC 8-201(06-6866-1510))
(TEL: 06-6866-1510
www.yodoyabashift.com/)
こだわりの特徴
- 「やせ」へのこだわりは驚くほど強固。「やせ」は生きているなかで一番の価値がある。
- やせるためには食べ物の重さ、カロリー、種類などにこだわる。
- 食べていい物、いけない物を自分で決めており、それにこだわり抜く鉄壁の強さをもっている。
内容が一目でわかる本文の目次
- 「重さだけはゆずれない!」対「そこまでせんでもええやないの!」
- こだわりは「ハンバーグの重さ(g数)」。でも千里のほんとうの気持ちは?
- 拒食症の人の「やせ」へのこだわりは鉄壁の強さ
- ガリガリなのに「私の腕、まだこんなに肉がついてるでしょ」
- やせへのこだわりから拒食症に、その根性で立ち直る
千里さんが食べ物の重さやカロリーにこだわりだしたのは、一年あたり前のこと。母親は「あれ、おかしいな」と気づき当センターのカウンセリング治療を受けていました。
千里さんのつくるハンバーグは重さが決まっています。それもきっちり決めた重さになるようこだわるので時間がかかり、母親とよく衝突していました。「重さ(g)だけはゆずれない」という千里さんと、「そこまでせんでもええやないの」という母親のバトルがキッチンでよくおこっていました。次のお話もそのうちの一つです。
1.「重さだけはゆずれない!」対「そこまでせんでもええやないの!」
「お父さんとお母さんのは100gずつね。百合(妹)は120gよ。私は50gでいいの」と、千里さんは作りながら一つ一つのハンバーグをラップにくるんで重さを計ります。とくに妹のはちょっとでも重さがちがうと作り直してはまた計り計っては作り直し・・・と、何回も計るので時間がかかっていました。「そこまでせんでもえーやないの!」と、母親はイライラしてついきつく言ってしまいました。
「千里さんの食べ物の重さへのこだわりは、拒食症の人によくみられる特性です。時間がかかるでしょうが、可能なかぎり持ち味の一つですからできるだけ尊重してあげましょう」と、先日のカウンセリング治療で母親はアドバイスをもらったばかりでした。わかってはいるのですが夕飯の時間が迫ってくると、母親は辛抱しきれずついきつく言ってしまいました。「あ、しまった。言っちゃーいけないんだ」と、母親は口を押さえましたがだめでした。「だって、だって・・・・百合ちゃん(妹)このごろやせてきているやん。もっと食べささなあかんやないの」と、千里さんは言ったかと思うとわっと泣き出して部屋に入ってしまいました。
その日の夜は怒ったまま部屋から出てこず、夕飯も食べませんでした。母親は「どうしよう、私がいけなかったんだわ。せっかくきげんよく作ってくれてたのに」と、気が重くなりました。
2.こだわりは「ハンバーグの重さ(g数)」。でも千里のほんとうの気持ちは?
摂食障害(拒食症・過食症)の人が食べ物のg数にこだわるときは、心の底になにか隠されています。カウンセラーはそれをはっきりさせるため、母親と千里さんの「ハンバーグづくり」をめぐる言い争いについて、語ってもらいました。落ち着いて話しをきいてみると、それぞれの言い分があるようです。
【千里さんの言い分】
百合(妹)がこのごろやせてきてるような気がして、もっと食べないと私みたいに拒食症になるかもと心配で120gにしたのよ。私のハンバーグは50gなの。これは私が自分で決めた重さだから。だれが何と言ってこの重さはゆずれない。50g以上は絶対に食べないからね。お母さん、私を否定するような言い方やめてね。
【母親の言い分】
百合はふつうでしょ、なにもやせていませんよ。このごろ百合にたくさん食べさせようとしてるのもいやなの。食べないといけないのは、千里でしょ。なのに自分のハンバーグは50gだなんて。母さんはらたってきたんだよ。それに一つのハンバーグつくるのに、重さにこだわって作り直すから時間がかかって。母さんイライラしてしまうのよ。
拒食症の娘と母親の争いは、ハンバーグの重さでした。少しでも多く食べてほしい母親、少しでも少ない量にしたい娘。永遠と言い争いがつづきそうな雰囲気です。こうした争いは摂食障害(拒食症・過食症)の家庭によくある食事準備のようすです。
(注:妹(姉妹)の食べる量についての葛藤はよくあることですが、ここでは紙面の都合上、深くふれてはおりません)
この内容について『特性(4)「食べさせる」』で事例をまじえてくわしく書きました。参考にしてください。
3.拒食症の人の「やせ」へのこだわりは鉄壁の強さ
なぜこんなに拒食症の人は食べ物の重さにこだわるのでしょうか。その心の奥には「太るのが恐くて食べたいけれど食べられない」という心理があります。「ちっとも太ってないよ。スマートでかっこいいじゃない」とまわりの人が言っても、本人はそう思えません。「ありがとう。うれしいわ」と口では言っても、心のなかでは「もっとやせなきゃ。ダイエットの仕方があまいかな」と思いさらに食べ物にこだわりだします。
「炭水化物はダメ。ご飯やパンなんかは私食べないから」「チョコレートやアイスクリームみたいな甘いものは買ってこないでね」と母親に要求し始めることがよくあります。「カロリーの高い食材は太るから、甘い物も太るから、太ることはぜったいにいや」と、食材のカロリーややせることにこだわりだします。
拒食症の人は食べないといったら徹底して食べません。拒食症の人の「やせること」へのこだわりは鉄壁の強さです。体重がどんどん減ってきて、生理がとまってしまうこともよくあります。少しでもこんな様子がみえたら、できるだけ早く専門家に相談しましょう。
4.ガリガリなのに「みてみて私の腕、まだこんなに肉がついてるでしょ」
過去にこんな経験もありました。「K子さん、体重もうちょっと増やさないとね」と、カウンセラーが話したところK子さんからつぎのような反論が返ってきました。「先生、みてみて私の腕。こんなに肉がついてるでしょ。これをなんとかしないとって思ってるの」と、目の前にニョキッと腕をつきだしました。その腕は小枝のように細く、骨と皮ばかりというかんじでした。
「このやせた腕でまだ太ってると思ってるのか。K子さんのやせへの執着はまだまだ強烈だな。治癒への道はこれからだが険しいぞ」と、そのときカウンセラーは深呼吸を一つしました。「やせることへのこだわりを解くように話しを進めても、治療者側に勝ち目はない。焦点を他の話題にはずさなくてはカウンセリングが進まない」と、拒食症の人のやせへのこだわりの強さに直面した以前のエピソードを思い出しました。
5.やせへのこだわりから拒食症に、その根性で立ち直る
淀屋橋心理療法センターに摂食障害(拒食症・過食症)専門外来が作られて30年になります。福田ドクターは精神科医師であり、38年のカウンセリング治療歴があります。病院の精神科医師として8年、淀屋橋心理療法センターを設立してカウンセリング・ドクターとして30年。摂食障害(拒食症・過食症)の治療には経験があるだけに、「やせることにこだわる拒食症の人の心」をよく理解しています。
「やせへのこだわりはすごいですね。それがあなたの根性です。やせることはあなたを守る最大の砦じゃないですか。根性で拒食症になったんですから、その根性であなたは拒食症から立ち直っていくんですよ。
「食べ物のカロリー、体重、やせること」にこだわりぬくことから、自分の強い意志を本人も親もしっかりと自覚し、やがて親は拒食症の子どもの食べる物、好みを受け入れていきます。「もっと栄養になる物を食べないとだめじゃない」と否定的にとらえていた子どもへの言葉をやめて、「食べられる物から食べていきましょうね」と、子ども中心の食事スタイルに変わってきます。
両親の「こんな低体重でわが子の命はだいじょうぶだろうか」という心配でたまらない気持ちにも、福田ドクターは命の安全弁の仕組みを作りつつ、拒食症がカウンセリング治療で治る方向に前進していきます。