(4)「食べさせる」:「お母さん、お料理できたよ」という拒食症の娘には落とし穴が(千里 中3 15才 拒食症歴1年)

摂食障害(拒食症)のカウンセリング治療は、淀屋橋心理療法センター(大阪)の「摂食障害専門外来」で行っております。
大阪府豊中市寺内2丁目13-49 TGC8-302(06-6866-1510))
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内容の「重要ポイント」が一目でわかる本文の目次

  1. 「妹を太らせたい」思いから、食べさせようとする拒食症の千里
  2. 母親、百合(妹)と千里(本人)と女3人の争いが毎日のように繰り返されて
  3. 「お母さん、お料理できたよ」という拒食症の娘には要注意・・・3つのステップ
    • ステップ1:娘も母もお互いに和気あいあい、思いやりムードがいっぱい
    • ステップ2:だんだん料理が増え、娘の顔つきや声も懇願からムリじいに
    • ステップ3:食べさせようと母親をおどしたり、威圧的になったり
  4. 「娘を思いやる母親の気持ち」は尊いが、落とし穴が
  5. 母親が太ってきたら「私のほうがやせてる」と、拒食症の娘はうれしい
  6. 初めが肝心、「ノー(拒否)」の言い方にも工夫が必要

1.「妹を太らせたい」思いから、食べさせようとする拒食症の千里

拒食症「特性3:こだわる」のコーナーでご紹介した拒食症の千里さんの「やせへのこだわり」に続くお話です。

あの話しのなかで千里さんは、妹(百合)に大きなハンバーグを食べさせようとしていました。摂食障害(拒食症・過食症)の家族にはよく見かける光景です。なぜこのようなことをするのでしょうか?千里と母親の言い争いを追いながら、説明していきましょう。

自分のは50gなのに妹のは120gのハンバーグ。母親が「なんでそんなことするの!百合のは大きくて、あんたのは小さい。食べないといけないのはあんたのほうでしょ!」と怒り、言い争いになってしまいましたね。

千里の気持ちの奥には「このごろ百合がやせてきてる。食べる量が減ってるんだわ。なんとかして食べさせて太らせなくては」「自分よりほっそりとしている妹をみるのはがまんできない」という気持ちがありました。ここにも拒食症の人がもつ「やせへのこだわり」が表れています。

2.母親、百合(妹)と千里(本人)と女3人の争いが毎日のように繰り返されて

「自分の作った料理を家族(とくに女性、母親や姉妹)に食べさせようとする拒食症のクライアントさんはけっこういます。これを流れのままにしておくと、だんだんエスカレートして家族内トラブルへと発展していくおそれがあります。

「百合ちゃんこのごろやせてきてるやん。もっと食べささなあかんやないの」と主張する千里。「なに言ってるの、食べないといけないのは千里のほうでしょ」と怒る母親。百合自身は二人の争いを横目にみて「私がどれだけ食べようと、かってやないの。やいやい言わんといて。うっとおしいな」とうるさがっています。

摂食障害(拒食症・過食症)の家族では、このように女たちの食をめぐる争いが、毎日のように繰り返されていることがよくあります。拒食症の人の「食べさせる」要求を母親がブロックしようとして揉めだし、そこへ妹が絡むというパターンです。こんなもめ事で晩ご飯がスタートするというのもいやなもので疲れます。

このような食をめぐる争いを避けるため、注意しなければならないアドバイスを三つのステップに分けて、拒食症の人の「食べさせる」気持ちの変化を中心にお話しましょう。

3.「お母さん、お料理できたよ」という拒食症の娘には要注意・・・3つのステップ

◆ステップ1:娘も母もお互いに和気あいあい、思いやりムードがいっぱい

拒食症であってもはじめのうちは「食べさせる」行為も、和気あいあい互いを思いやるムードがただよっています。「お母さん、ご飯できたよ。あったかいうちに早く食べて!」「まあ作ってくれたんやね、ありがとう。うれしいわ」と、母親は大喜びです。「娘が私のために食事を用意してくれるなんて」と。「お母さんが食べたら、私も食べるよ」「えー、千里も食べるの!」と、お母さんはうれしい悲鳴をあげました。「せっかく作ったくれたお料理、ありがたくいただくわよ」。

娘もはじめのうちは、「いつもお母さんに心配かけてるから、たまには私も作って喜んでもらおう」とか、「お母さんに食べてもらったほうが私も安心だわ」という軽い気持ちであることが多いようです。

◆ステップ2:だんだん料理が増え、娘の顔つきや声も懇願からムリじいに

「はーい、お母さん、できたよ。みーんなお母さんのために作ったの」と娘。「あら、こんなにたくさん・・・ずいぶん作ったのね。ぜんぶ食べられるかな?」と、母親は料理の多さにびっくり。「お母さん、そんなこと言わないで。お願いだからぜんぶ食べてね」と、懇願してきます。「ぜんぶ食べてね」という声がどことなくきつい感じがします。「わかった、頑張って食べるね。でもぜーんぶは無理よ」と母親が言うと、娘の声も顔つきも変わってきました。「私が作った料理は食べられないっていうの?!」「いや、そんな意味では・・ただ量が多すぎるっていうの」「ぜーんぶ食べてね、いい?残したらダメよ!」と娘の声は懇願からムリじいに変わってきました。

◆ステップ3:食べさせようと母親をおどしたり、威圧的になったり

「お母さん、まだ焼き飯のこってるよ。私のつくった料理が食べられないって言わせないわよ。せっかくお母さんのために作ったんだから」と、娘の声は威圧的です。「いや、そんな意味では。でもねこれは多すぎるわ。なんぼなんでもお母さん食べられない」「なに言ってるの、ぜーんぶ食べてね。お母さんが食べてくれないと、私もぜったい食べないよ」と、おどしてきます。このおどしは母親にとってはつらいものです。「自分が食べたら娘は食べてくれる、食べないと娘も食べないと言っている」、もう母親はパニックになりそうです。「もうこれ以上食べられないごめんね。お腹いっぱいなの」と母親が言うと、「ぜんぶ食べるまでここを動いたらダメよ」「お腹が痛い」「じゃ胃薬のんだら。30分ほど休んでたら、また食べられるでしょ」と、娘はきつい声で食いさがってきます。

こんなふうにだんだんと娘が威圧的に食べるようせまってくることがよくあります。このときの娘の心のなかは「お母さんが食べてくれたら、私も安心して食べられる」「お母さんが太ったら、どんなに私の心はやすらぐか」といった気持ちが渦巻いているのです。

4.「娘を思いやる母親の気持ち」は尊いが、落とし穴が

私が食べたら、娘は食べてくれるかも。拒食症の苦しさから少しでも救われるかも」という母心から、無理をしてでも食べようとします。しかし母親が食べたからといって、拒食症が良くなるということはありません。娘の「食べさせよう」とする要求は、これでいいという限界はなく底なしの泥沼と言ってもいいでしょう。

5.母親が太ってきたら「私のほうがやせてる」と、拒食症の娘はうれしい

娘の要求に応じて食べ続けていると、母親はどんどん太ってきます。娘はそんな母親を見て「あー、お母さんふとってきたわ。ヤレヤレうれしいな。それじゃ私がこれだけ食べてもだいじょうぶだわ。私の方が細いわ」と内心ほっとした気持ちになるのです。食べさせようとする拒食症の人の心の根っこには、お母さんを太らせたいという強い気持ちがあります。太った母親をみて「私、お母さんよりまだやせてるわ。よかった」という妙な安堵感が得られるのです。

6.初めが肝心、「ノー(拒否)」の言い方にも工夫が必要

母親が食べたからといって拒食症が良くなるとか、落ち着くといったことはありません。なっても一時のことでしょう。「いいわよ、母さんが食べればいいんでしょ。そのかわりあんたも食べるのよ」と、食べる約束をして一時逃れしないようにしましょう。拒食症は良くなるどころか悪くなるおそれがあります。

初めが肝心です。娘が食べさせようとしてきたら、さりげなく「ノー(拒否)」と言いましょう。母親が「あんたがこれだけ食べるんやったら、母さんその倍食べるわ」ということなどできるだけ言わないようにしましょう。だんだんと要求がエスカレートするようなら、なおさら要注意です。むちゃくちゃなことを言い出す恐れもありますので、できるだけ断り方をしっかりと考えましょう。初めのうちならそれだけで深みにはまらずにすむ場合がよくあります。もし母親に食べさせるのが当たりまえになっているのなら、そこから下りる工夫が必要です。

拒食症の子どもにこのようなできごとはよくありますし、対応を間違えると親子関係がこじれ、症状が悪化する恐れがあります。早いうちにこの芽は摘んでおかなくてはなりません。とは言うものの、「ノーを言って、もし子どもが食べなくなったらどうしよう」という親側の心配(それを通り越して恐怖心)はもちろん考えられます。「子どもが食べてくれるなら、要求にしたがって親も食べよう」という気持ちも、要求がエスカレートしないのなら大目にみても大丈夫でしょう。この状況については専門家でもさじ加減に苦労します。

2014.06.09  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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