摂食障害(過食症・拒食症)のカウンセリング治療は淀屋橋心理療法センター・摂食障害専門外来で行っております。(06-6866-1510)
お正月はメンバーが増減するアコーディオン家族
摂食障害(過食症・拒食症)の人たちにとって一年の行事を無事に過ごすのはたいへんなことです。そのなかでも毎年やってくる「お正月」はとくに困難だと言う声が多く聞かれます。
朝一番に家族とともに祝うおせち料理、遠くに下宿しているお兄さんお姉さんの帰省、久しぶりにやってくる親戚の人たち、このように家族メンバーが膨れたり縮んだりしてまるでアコーディオン家族のようです。その変化に摂食障害の人たちは自分の生活ペースを崩されてしまいます。毎日自分の食べ方を守っている過食嘔吐もままなりません。トイレで吐くこともはばかられ、いつ食べていつ吐いたらいいか、考えただけでパニックに落ち入りそうだと言います。彼女たちは「お正月は地獄の苦しみです」と言って悩んでいます。
お正月が終わり、摂食障害(過食嘔吐)でカウンセリング治療を受けている美枝さん(過食嘔吐4年 大学一年)がやってきました。お正月を過ごすのがどんなに大変だったかを話してくれました。その様子をかいつまんでお話しましょう。
「お正月のおせち料理がこわい」と食べられない美枝さん
美枝さんもお正月が恐い一人です。テーブルに並べられたおせち料理を食べるのが一苦労。「あのお魚料理おいしそう。食べたいな。でも食べたら太るかな。いやだいじょうぶよ。でもどうしよう。食べだして止まらなくなくなったらどうしよう」と心のなかでは葛藤がクルクル。お箸をもってちゅうちょしていると、「美枝、迷い箸はいけないよ。自分が食べたいお料理は決めてからお箸をつかいなさい」と父親の声。「美枝ちゃん、お雑煮のお餅、いくつ食べる?」と母親の声も飛んで来る。「あー、もうやめて、私はお正月のおせち料理がこわいの。太るのが恐いの。そんなに食べることを聞かないで!」と、美枝はパニックになりそうでした。
洋服も指輪も入らないとまたまたパニックに
お正月は親戚の人たちもやってくるので、美枝さんは朝からちゃんと起きて着替えをしようとしました。昨年の秋にちょっと気に入って買ったチェックのワンピースです。お正月に着るのを楽しみにしていました。ところが美枝さんの部屋から叫び声とも鳴き声とも思えるような声がして、母親はびっくりして飛んで行きました。
「うわー、私もだめ、死んだ方がましや。お母さん、なんとかしてー!」と、ベッドにうつぶせになって泣いています。「美枝ちゃん、落ち着いて、いったいどうしたの?東京のおばさんもまもなく来られるよ」と母親はなだめます。美枝さんは泣きながら「お母さん、あのチェックのワンピースが入らないの。私太ってしまってる。それにね、この指輪もはまらない。こんなにまんまるい指になってしまってた。気がつかないうちに、私食べてたんだー!どうしたらいいの?食べるのがまんするしかないの?お母さん、なんとか言ってよ!」と、美枝さんはお母さんを責め立てます。
摂食障害(過食症・拒食症)の人のお正月の過ごし方
美枝さんはカウンセリング治療で話しをしてくれましたが、いまもまだ尾を引いているのか思考がバラバラです。話題があちこちに飛んで、自分でも「わかりにくくてすみません」と言っていた。
お正月にパニックに落ち入るのは美枝さんだけではありません。多かれ少なかれみんな大変な思いをしてお正月をすごしています。なかには家族と一緒にお祝いの食卓を囲むことができず、新年早々布団をかぶって起きてこない人もいます。アコーディオン家族にがまんができず、近くのホテルに部屋をとってもらい早々に移動する人もいます。どの形も摂食障害(過食症・拒食症)の人たちにとってはよくある姿です。こんなことを経験しながら、彼女たちは摂食障害と戦い続けているのです。
「お正月は娘の過食嘔吐の改善がわかるバロメーター」と母親は言う
母親はそんな美枝さんに手を焼きながら、それでも毎年過食嘔吐の状態は改善していると話してくれました。「暮れはおせち料理をお重につめる手伝いをしてくれました。料理のあとの洗い物をしてくれたりで、私は大助かりでした。パニックなどおこしながらも、親戚のおばさんにも会って挨拶できましたし。前年ならとても考えられなかった事です」と、母親はうれしそうでした。「摂食障害は、すぐに治る病気ではないとわかっています。年ごとに良くなっていく美枝を見て、娘もがんばっているんだなとよくわかります。私ら親も腰をすえてカウンセリング治療に取り組もうと、主人と話しあっているんです」と。そして「お正月は美枝の過食嘔吐の改善がわかるバロメーターみたいです」と、つけ加えました。
摂食障害(過食症・拒食症)の家族は「この子はなにをわがまま言ってるの、勝手なことばっかりして」と思う時も多々あるでしょう。が、適切なアドバイスがもらえるカウンセリング治療の路線にのっていれば、家族の辛抱、理解と見守るまなざしは、やがて本人が摂食障害(過食症・拒食症)から立ち直る原動力となっていくことがよくあります。