「もう疲れはてました。助けて下さい」と、母親の声が(菜月17才 摂食障害・過食症)

過食症になやむ娘さん(菜月17才)のことで、淀屋橋心理療法センターのホームページをみてお母さんが問い合わせてこられた。

当センターの(旧)ホームページを開くと、トップページに「診療科目」というのがある。そのなかから「過食症」をクリックすると、12の項目にわかれている。各項目には、摂食障害(過食症、拒食症)に悩むさまざまな家族の姿と治療のようすが書かれている。そのなかの一つが娘さん(菜月)の目に止まったようだ。以下に来所にいたるまでのお母さんと菜月さんのやりとりを紹介しよう。

「これ、私らにそっくり。お母さん、一度聞いてみて」

「ねえ、お母さん、これ、読んでみて」「えー、どれどれ。ふーん」「これって、私らにそっくりやね」「ほんまやね」「お母さん、一度この淀屋橋心理療法センターってとこに、電話して聞いてみて」「そうやね、聞いてみようか」。インターネットのホームページを前にして、母と娘でこんなやりとりがかわされた。とりあえず母親が電話をかけて、ようすを聞いてみることになったという。

菜月の見つけたホームページの記事の抜粋 参考までに・・

過食に悩むあなたへ:『吐けない!太る!この恐怖をなんとかして!』

「食べた後、吐くのに必死なの。苦しくて指をのどにつっこんで。やっと吐けた、やれやれ。でもね、体重計にのったらいつも1Kg増えてるの」。この瞬間から美佳のパニックがはじまる。「今でも太ってるのに。これ以上太りたくない。お母さん、なんとかして」と、母親に泣いて訴える。「だいじょうぶよ、ちっとも太ってるふうには見えないから」と、なだめてもダメ。恐怖感はだんだんエスカレートして、手当たり次第に物を投げだす。止めようとする母親にもなぐりかかる。「太る恐怖」に追いつめられて、母親と騒然とした争いの毎日。なのに毎日食べる事をやめられない。(つづく)

「娘が過食症なんです。助けてください」

ホームページの記事を読んで母親はこう思った。「たしかに私たちの争いにそっくりだわ。ここに電話すれば、なんとかなるかも」。それに加え「親御さんへのアドバイスを中心にお出ししています」という内容も、疲れはてた母親にはうれしかったようだ。母親はさっそく淀屋橋心理療法センターに電話をかけてみた。

当センターでは、摂食障害についての相談は不登校とならんで一番多い問い合わせの一つである。過食症と一言で言っても、症状にはいろんなパターンがあるので、どんな質問をお受けしてもお答えできるよう準備してあらゆる角度から準備している。もちろん及ばない点はあると思うが。以下は菜月の母親と電話受付のやりとりを、参考までに抜粋してみた。

電話での質問と対応のようす

母親:もしもし、聞いてください。娘が摂食障害なんです。・・すごい量食べて吐いて、それが毎日なんです。

受付:それはいつごろからでしょうか?

母親:中三の秋ごろからって、娘は言ってます。今高校二年だから二年前からですか。

受付:はじめっから過食でしたか?

母親:はじめは拒食だったんです。そのころ私ちっとも気がつかなくて。けど、いつのまにかものすごい量を食べる過食に変わったようです。食べたあと吐くんですけど、吐ききれなくて。「太る、なんとかしてっ!」って、たいへんなんです。毎朝、親子げんかで、もう修羅場ですね。

受付:そうですか。それはたいへんですね。もう少し大事な質問を聞かせてください。今、身長と体重は?

母親:163cmと50kgです。

受付:あとお食事は、朝、昼、晩と三食、食べられますか?

母親:私が気をつけてるばあいは、朝昼晩と食べるんですけど。あのもう、過食の日は、朝起きてすぐ食べて、吐いて、その繰り返しで、疲れて寝てしまったりとか。生活はとても不規則です。

受付:過食はどのくらいの頻度でされますか?

母親:えー、ひどいときは、ほとんど毎日で。うまく吐けないと「太るっ」って、暴れたりします。

受付:今病院に行かれたり、薬をのまれたりはありますか?

母親:ないです。あのー、娘がお宅のホームページ読んで、「私にそっくりだから、ここに相談してみたい」って。それと母親の私が精神的に追い込まれてしまって、もう疲れはてました。助けてください。

受付:それはたいへんですね。じつは「事前相談」といって、無料の相談日があるのですが。

母親:え、事前相談?それはどんなものですか?

受付:はい、一度こちらにおいでいただいて、ご相談内容を直接カウンセラーにお話いただきます。こちらでカウンセリングを受けて、良くなる見込みがあるかどうかを相談させていただいたりします。またこちらの治療の進め方なども説明させていただきます。

母親:それは無料なんですか?

受付:はい。一回限りですが無料でそういった相談日をもうけております。

母親:そうですか。それじゃ事前相談の予約をお願いします。できるだけ早い日でお願いします。

もう疲れはてました、とのお母さん。

母親は、いままでの娘との食をめぐる争いに疲れはてたのか、一日もはやく来所したそうなようすだった。ホームページに書いてある「親御さんにもアドバイスをさしあげます」という言葉が救いだと話していた。過食症という症状は、親へのアドバイスだけで治るほどシンプルなものではない。親と同時に子ども自身の努力も不可欠である。が、親の対応の仕方でかなり改善できる部分もあり、なによりどうしていいかわからないと疲れはてている母親にとっては救いになるであろう。行動レベル、言葉掛けレベルの具体的なアドバイスは、まちがいなくまよった親御さんたちの道案内の役割をはたすものと思われる。

2019.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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