摂食障害(拒食症)のカウンセリング治療は、大阪の淀屋橋心理療法センターにある「摂食障害専門外来」で行っております。
(大阪府豊中市寺内2丁目13-49 TGC 8-201(06-6866-1510))
(TEL: 06-6866-1510
www.yodoyabashift.com/)
本文の目次(全体が一目でわかる)
- 非嘔吐過食(吐かない過食)が右肩あがりに増えてきた
- 非嘔吐過食(吐かない過食)の三つの事例
- 事例1:「食べるのを止める方法を教えてください」
- 事例2:「夫に吐く姿を見られたくない」
- 事例3:「食べ吐きの姿を子どもに見られたくない」
- 非嘔吐過食(吐かない過食)を治すカウンセリング治療(「太る恐怖」をテコにして)
- 非嘔吐過食(吐かない過食)には、メリットとデメリットがある。
(1)非嘔吐過食(吐かない過食)が右肩あがりに増えてきた
最近の10代後半~20代の女性のなかに「私吐かないのよ」という過食症の人が増えてきました。以前からこの傾向はあったのですが、過食はしていても「吐く事を知らない」人が多かったためと思われます。過食をしたあと吐かないので、彼女たちにとって最悪の敵「太る恐怖」に悩まされることになります。「太るなんて、生きてる値打ちがない」とか「こんな醜い姿、人に見られたくない」と言って苦しんでいる人が多くいます。
インターネットの普及とともに、たくさんの摂食障害(過食症・拒食症)の人たちのブログが公開されています。それを読んで「好きな物を思いっきり食べても、吐けばやせてられる」ということを知り、「えー、まじーッ!吐けばいいのか。なんだ、私もやってみよう」と、飛びつくように過食をしたあと吐きだした人がたくさんいると聞きました。当センターに来所したクライアントさんのなかにも該当する人がたくさんいます。摂食障害(過食症・拒食症)に関する情報が手に入れやすくなったため、過食をしたあと嘔吐する人が一時期増えてきました。
このように過食をした後吐くということが、きわめて当たり前の過食症の姿になってきたのですが、最近また「吐かない過食=非嘔吐過食」をしようと自らの意思で決めた人がみられるようになりました。その理由を当センターの治療事例から探ってみましょう。
(2)非嘔吐(吐かない)過食の三つの事例:(27才 過食歴7年)(22才 過食歴6年)(30才 母親 過食歴10年)
事例1:『食べるのを止める方法を教えてください』M美さん(27才 過食症歴7年)
吐かない過食が7年続いています。過食症で来所するケースとしては平均の長さですが、他の症状とくらべると異例の長さと言えるでしょう。しかしその割には危機感がうすいという感じがします。
「食べることさえ止まればなんとかなる」と思っているからでしょうか。カウンセリングでも「食べることを自分でコントロールできない。止める方法を教えてほしい」との一点張りでした。もちろん過食をすることで「金銭的な負担」はあります。また食べるたびに「またやってしまった。私ってダメ人間だわ」と落ち込んだり、自己嫌悪にさいなまれたりします。M美さんももちろん例外ではありません。
「太った体で外に出ると、引け目を感じてしんどい」など、日常的に重い荷物をしょって生きている感は免れないのは事実です。M美さんの吐かない過食症からくる苦しい気持ちは、誰もが味わう苦しさです。「いっぱい食べることを止めたい。もうこれ以上太りたくないんです。だから止める方法を教えてください」というM美さんの訴えは、たしかに吐かない過食症の人が抱える大きな問題であることは確かです。
しかし「吐かない過食症とは単なる食べるのを止める方法の問題ではない」ということをわかってほしいと思います。その裏にはもっと深いその人自身の生き方への問いかけが隠されていると言えましょう。生活全般に加え自分自身の持ち味を見直していくことが必要です。自分の本質はしっかりだせているか、言いたい事は相手に受け入れられるように言えているか、家族もふくめた人間関係でなにかしんどさを抱えていることはないか?これらのことをつぶさに聞いていくことで、解決へのヒントが見つかることがよくあります。M美さんの場合も「人間関係の弱さ」が浮き彫りになってきました。「人とのあいだでなんでも『はい、はい』と笑顔で受けてしまう一面。いつも合わせるからしんどい」といった、問題がみえてきました。
カウンセリング治療を重ねることで、こうした奥に隠れている本質的な問題が見えてきます。そうしてこそ初めてほんとうの過食症からの脱却がつかめるのです。
事例2:『夫に吐く姿を見られたくない』K子さん(22才 結婚して4ヶ月 過食歴6年)
過食嘔吐を長年続けていたけれど、「結婚を機に吐くのをやめました」という人もけっこういます。「吐く姿を夫にみられたくない。夫にきらわれるのでは」という不安があると言います。K子さんもその一人でした。
吐くだけでなくできれば「食べる姿も見せたくない」という気持ちもあります。「ガツガツとみっともない食べ方で食べてないかしら」と、不安で仕方ないようです。「夫にはいつもかわいいK子でいたい」という女心もあると話していました。
「K子はたくさん食べるんだね」とか「食事のあとなのに、なんでそんなにお菓子食べるの?」といった夫からの質問にはうんざりするようです。K子さんだけでなく、ほとんどの過食症の人は「食べる領域には、よかれあしかれ踏み込んでほしくない」という気持ちが強くあります。
事例3:『食べたり吐いたりの姿を子どもに見られたくない』S子(結婚して3年 2才の女の子 過食症歴10年)
「結婚して夫には過食症を打ち明けてわかってもらえたけど、食べ吐きする姿を子どもには見せたくない」という母親が、現在もカウンセリングを受けに通っています。とくに子どもが女の子の場合はこの気持ちが強いようです。
その母親たちは一様に「娘が3才までに、自分の過食症を治したい」ということをはっきりと言います。「このごろの女の子ははやいのよ。なんでもわかってるみたい。私が過食してるとまだ2才なのに『ママ、お菓子いっぱい。ママだけ、いっぱい』といって手をだしてくるそうです。冷や汗をかいたのはおばあちゃんが来たとき。「ママね、ずるい、ママだけお菓子食べてる、いっぱい、ななちゃんにくれない」と言いつけたのです。S子さんはあとで母親から叱られました。「S子、子どものまえで過食してる姿見せたらだめですよ。まねしたらどうするの。このごろの子はなんでもはやいから。気をつけてね」と。
S子さんはその後カウンセラーに相談し、次の約束を守る決心をしました。「食べてもいいけど、子どもの前では食べない。食べる量も半分に減らす」という約束はすぐに守れました。食べる量を減らすのは、やせることにつながりますから決心すればやりやすかったようです。
むつかしかったのは「もう吐かないでがんばりましょう」という約束でした。「吐かないと太る」「太った醜いからだになってしまう」という恐怖感からのがれられなくて、毎日がつらいとS子さんは訴えてきました。カウンセラーは「体重をはかって、今日は何kgかノートにつけてきてください。毎日ですよ」という課題をだして切り抜けたこともあります。「吐かないから太ったんではないか」という想像をしていると、イメージばかりが膨らんで不安感が大きくなる恐れがあります。数字でその日の体重を確認すると、思った以上に増えていなく逆に減って行くのを目にすることができ、S子さんは安心したようです。
「吐かない過食で、太らないように食べる」という治療的課題はなかなかむつかしい道のりですが、カウンセラーと手に手をとって歩むことで、S子さんはいつしか実行できるようになりました。
(3)非嘔吐過食(吐かない過食)を治すカウンセリング治療(「太る恐怖」をテコにして)
非嘔吐過食の方は「食べる量」に気をつけましょう。たくさん食べると太る恐怖が襲ってきます。しかし治療ではこのマイナスの気持ち「太る恐怖」を、カウンセリングで治していくテコに使うことがよくあります。
「太らないよう」食べる量を少しづつ減らしていったり、カロリーの少ない物を食べる治療プログラムをすすめます。なかなかむつかしい道のりですが、カウンセラーと手に手をとって歩むことでいつしか実行できるようになります。結果が「太らない=やせる」方向にいきますので本人にとっても受け入れやすく、頑張る気持ちがわいてきます。
(4)非嘔吐過食(吐かない過食)にはメリット(良い点)とデメリット(悪い点)がある
【非嘔吐過食(吐かない過食)のメリットは?】
- 吐かないため、食べる量がある程度制限されます。そのために体力は温存されたうえ、食材にかかる費用に限度ができます。これは本人にとっても家族にとっても大きなメリットと言えるでしょう。
- 吐かない過食におけるもう一つの大きなメリットは、「体力(エネルギー)」があることです。どんな治療プランをたてても実行に移しやすいので、治る道筋を歩みやすいという印象をもっています。また治そうとする意欲も持続しやすいように思います。これは治る上で大きなメリットとなります。
【非嘔吐過食(吐かない過食)のデメリットは?】
- 何と言っても食べた物を吐かないために「体重が増える=太る」ことです。吐くのをやめる、ガマンすることは大変な事です。当人にとっては「吐かなければ、太る」という恐怖感がつきまといます。これが「過食症」の人のつらさであり大敵になります。
- 過食したあと吐かないことからくる体重の増加は避けられません。太ると機嫌が悪くなり、家族の人たちも対応に苦慮することがよくあります。
- 「過食をしたあと吐かないと太る」恐怖心から「下剤」を多用する人も多くいます。お腹に入れた物をすっかり出してしまいますので、栄養が吸収されずフラフラになる人もいます。下剤の使用には周りの人(親)の注意を要します。