梨花の場合、リストカット(自傷行為)が止まったのは「母親との関係改善」が決めて
梨花はフリーターで働きだして3年になる。その間、何度もリストカット(自傷行為)を試みている。ひどいときはかなり深く切って、救急車で運ばれたこともある。思春期病棟に入院したとき、自分よりずーと若い子たちが、たくさんリストカットをしているのを知って驚いた。いつのまにかその子たちの「話を聞いてくれるお姉さん」になっていた。「リストカットした人にしかわからへん心の動きってあるんよね」と、梨花は口ぐせのように言っていた。
梨花の場合は家族療法のカウンセリングで、母親との関係を改善してもらい、なんでも話せる母娘関係になったことがリストカットから卒業できた決めてだった。以下に母親と梨花の会話の一部を紹介してみた。
梨花は「なやみ相談のお姉さん」みたい
梨花は若い人たちの頼れるお姉さん。でもその役割はしんどいときが多いので、母親にあれこれ話して肩の荷をおろし、エネルギーを再生産している。「お母さんに聞いてもろたら、ほんまに楽や」が、今の口ぐせである。
梨花:お母さん、きょうな由美から電話かかってきたんやで。ホラおぼえてるやろ。おんなじ病室にいた窓際のベッドの子。
母親:ああ、いたいた。あのかわいい子やろ。スヌーピーの毛布かかえてはなさへんかった子やろ。
梨花:そうそう、お母さん、ようおぼえてるな。由美な、また切ったんやて。ほんでもって私に電話してきて『どないしよう、なんとかしてー』ゆうてな。どうにもできひんやんかな。親に言えっちゅうの。由美だけやない、S子もT美もみんな悩みかかえとう。言わへんだけや。それを私にゆうてどうなるんや。そうおもわへんか?
母親:そうやな・・・しんどうならへんか?
梨花:うん、前はな。聞いてるだけでしんどかった。そやけど聞いたらんと、この子ら救われへんのや。また隠れて切りよるやろな」って思って聞いてやってた。
お父さんに叱られたとき、お母さん私のことかばってくれたやろ
梨花:お母さんがなー、淀屋橋のセンターでカウンセリング受けてから、私、しんどくなくなったわ。
母親:それはよかったなー。
梨花:入院してるとき薬ようけでたやん、おぼえてる?毎日ナースが朝昼晩と薬のんだかチェックしに来て。由美もS子もT美も、みんな薬じゃないよなー。薬だけでは治らんよな。ココロ病んでる人は、家庭環境にちと問題あり、なんやなー。
母親:うん、そうやな。
梨花:電話で「死にたーい」ゆわれても困るな。どう返事していいか、わからんかったわ。「死にたーい」ゆうてる由美の気持ちもようわかるしな。リストカット(自傷行為)は、切る体験した人にしかわからんってことあるしなー」。
私の場合は、お母さんや。お母さんが変わってくれたことが、一番やった。それでリストカットだいぶ減ったなー。「死にたーい」気持ちは残ってるけど、なんか、家でイライラすることがすくのうになったんや。
母親:そうか、お母さんもほんまにうれしいわ。淀屋橋心理療法センターで、お母さんに対応のアドバイスもろたんがよかったな。ええ具合にあんたに対応できるようになったんや。
梨花:そうやな、そのころからお母さん変わってきたよな。お父さんに叱られて、叩かれて。まえは「梨花が悪いんや。あんたが悪いからや」ゆうて、助けてくれへんかった。けどこのごろは違う。「梨花が悪いんとちがう。そんなに叱らんといたって」ゆうて、かばってくれるようになった。うれしかったわ。そんでかな、「切りたーい」思っても、お母さんが悲しむから切らんとこ」って、ブレーキがかかるんや。切るの止めるってしんどかったけど、お母さんの顔がうかんで、よう手首切らへんかったな」って思うわ。
梨花は今、病院のなかにある花屋さんでバイトをしている。「私がアレンジした花が、病気の人をなぐさめてるんやなって思ったら、この仕事やりがいあるわ」と、うれしそうに語っていた。もちろんリストカット(自傷行為)もいつのまにか、しなくなっていた。
(2008.04.30)