7年のひきこもり過食が1年のカウンセリング治療で、好転し外に出られた

7年にもおよぶ「ひきこもり過食」が、1年のカウンセリング治療で好転(真理子 過食症歴7年 24才)

過食症は治りにくい症状だ。7年間も「良くなってはまた食べ吐きに戻り」を繰り返していた真理子さんのお話をしよう。

過食症を克服した真理子さんはこう言った。「一年前カウンセリング治療を受けはじめたとき、こんなにスッキリと治る日がくるなんて信じられませんでした。今は克服できて外に出られるようになったのがうれしいです』と。

何度もよくなりかけてはまた食べて吐いて。真理子さんのひきこもり過食はこんなことを7年も繰り返していたが、「今度こそほんとうに治った」と言える状態だった。

「ひきこもり過食」を治すこつはまず「メリハリ過食」

真理子さんは、1年前カウンセリング治療をスタートしたころ、ほとんど家から出られなかった。ひきこもり過食症とでもいおうか。それがほぼ一年たったころから変化がみえだした。

母親といっしょに近くのスーパーに買い物に行けるようになり、さらに自分一人で過食の食べ物を買えるようになった。過食症のほうも一日中だらだらと食べてはゴロゴロしている「だらだら過食」だったが、カウンセリング治療で生活を見直し、時間をきめて食べる「メリハリ過食」に変えてきた。また母親の手伝いとして、食後のお茶碗洗いとお風呂洗いができるようにもなった。「私も娘のひきこもり過食にうちのめされていたけど、こんなに早く過食症にメリハリがつけられて。家事をやってくれるので助かっています」と、母親もうれしそうだ。

真理子さんは「初めのうちはメリハリ過食って時間を決めて過食しないといけないからしんどかったけど、慣れてくるとこのほうが動きやすいのでいいですね」と言っていた。「なにより外に出られるようになったのが、うれしい。自分の食べたい物が買えるんだもの」。

7年前のひきこもり過食が1年のカウンセリング治療でここまで改善したことに、セラピスト(カウンセラー)だけでなく母親も真理子自身も信じられないくらい喜んだ。

「真理ちゃん、ふっくらしたね」と言われて落ち込む

それから二ヶ月ほどたって、真理子さんは悲しそうな顔で母親といっしょにカウンセリングにやってきた。あれだけ外に出るのを楽しみにしていたのに、また自室にこもってしまって出られないという。またまた「ひきこもり過食」に逆戻りしてしまったようだ。いったいなにがいけなかったのか。真理子さんの話しにじっくりと耳を傾けてみよう。

「いつもは母といっしょの買い物なんですけど、その日はなんか気分がよくって一人で出かけていきました。近くのスーパーに行って好きなお菓子をさがしていたら、近所のおばさんがやってきて。『あ、いやだな』と思ってとっさに隠れようとしたけど見つかってしまいました。『真理ちゃん、元気そうね。ふっくらしてかわいくなったよ』って笑いかけてくるんです。

それから「ふっくらして」というおばさんの言葉がぐるぐると頭のなかをかけめぐってきて。「あー、私は太ったんだ。やっぱり太ったんだ。人目にわかるくらい太ったんだ」と思って落ち込んでしまい、逃げて帰りたい気持ちでいっぱいになりました。

比較ショックを受けて。「スマートできれいな女の人」と「太ったダサイ自分」

真理子さんの話しは続く。「マーケットを出て帰る途中、ブティックのウインドウをのぞいたらすてきな洋服が目にとまって。「あ、あの服ほしいな。私の好きな色」。そいで思いきって中に入ってみたんです。そしたら私と同い年くらいの女の人がいて。スマートで、きれいで、おしゃれで。鏡に映ってる自分の姿と比べたら、もうぜんぜんちがう。私は太ってて、ダサくて絶望的」。

比較ショックを受けた真理子さんは、それからまたまた一歩も外に出られなくなってしまったという。この話しを聞いた担当セラピスト(カウンセラー)は「こんどは比較ショックがやってきた。なんと過食症は治りにくいんだろう」と、またまた過食症克服の壁にぶつかってしまった。

カウンセリング治療で「比較ショック」が「ひきこもり過食」に戻らないよう防ぐ

「比較ショック」は長いあいだひきこもり過食に悩まされて外に出られない生活が続いた人によくあることだ。カウンセリング治療をうけてよくなり、外での活動がはじまると必ずと言っていいほどこの「比較ショック」に打ちのめされる。「知ってる人の言動」が気になったり、「同年代の人と比較」したり、「ふとショーウインドウにうつった自分の姿が意外に太っていた」などだ。この「比較ショック」をそのままにしておくと、ずるずるともとの「ひきこもり過食」に戻りかねない。

セラピスト(カウンセラー)は、そのときの状況を真理子さんからじっくりと聞いた。カウンセリング治療でひきこもり過食に戻らないための糸口がどこにあるか探し出すためである。

「打たれて経験力」をつければ「ひきこもり過食」は克服できる

「私ってダメだ。こんなことでまたひきこもり過食に戻ってしまうなんて」と、真理子さんは自分を責めている。長い間家にひきこもって過食嘔吐を続けている人は、外に出るといろんな経験がショックになる。セラピスト(カウンセラー)は、真理子さんにやさしく語りかけた。「外に出るといろんなことが押し寄せるようにやってきます。ショックも受けるでしょう。でもそうした経験の積み重ねが、やがて経験力に変わっていくんですよ。『打たれ弱い真理子さん』からやがて「打たれ強い真理子さん」に変身していくでしょう。ショックからの立ち直りも、だんだんと早くなっていきます。外で打たれて経験力がついてくるんです。今は試練のときです。きっと『ひきこもり過食』からほんとうに克服できる日がやってくるでしょう」。真理子さんは「そうか、これも経験のうちの一つなんだ。だれだっていっぺんに良くなるってことないんだから。『打たれ弱い私』から『打たれ強い私』になろう」と自分の心にいい聞かせ、ようやく立ち直ってカウンセリングルームをあとにした。

2013.09.25  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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