ぎりぎりタイプの不登校(高校生のギリギリ再登校)

ギリギリ再登校を願う気持ちに変化が・・

三学期に入り、あっという間に二月三月・・。とうとう学年末を意識する時期になってしまいました。これまで「一日でも早く再登校を」と望んでこられたご両親や先生方。不登校が長期化してこの時期になっても登校できないとなると、そのお気持ちの中に少なからず「迷い」が生じてくるのではないでしょうか。「ここまできたら学年の変わり目の方が行きやすいかも・・」「四月からはクラスもかわることだし、その方が気分が一新できるかも・・」と、「一日でも早く」から「次のキリの良い時から」に目を向けたくなります。留年までの日数に限りのある高校生も同様です。「ここまできたら留年も仕方ないか」「この際、通信制や定時制など環境そのものをかえてやろうか」と考える方も増えてくる頃です。はたして、どんな子の場合でも、気持ちを切り換えないといけないのでしょうか。

親や教師の努力が裏目に

不登校が長期化したり留年のタイムリミットが近づいてきているのに、毎日ゲームに明け暮れたりテレビをみてゲラゲラ笑ったり、一見のんびり構えているように見える子がいます。気持ちを確かめようと登校の話題をさりげなく向けてものってこないし、真剣につめよると部屋にこもってしまったり、中には「もう行かへん!」と投げやりな態度とってしまう子も・・。担任の先生が家庭訪問をしても部屋にこもって出てこなかったり、口を貝のように閉じてしまったりと、親や教師が努力すればするほど、いっそう反発してしまいます。やがて、「この子はもう行く気がないんだ」「相談する気がないんだから放っておくしかないな」と、再登校をあきらめるムードが・・。ついには子どもとの会話がいっそう少なくなってしまうのです。つめよれば逃げる、強く言えば反発する、やさしく言ってもかわされる・・・親や教師の努力がすべて裏目にでてしまう子にとって、他に打つ手はあるのでしょうか。

「キリの良さ」と「ギリギリ」

「登校しやすいタイミング」と聞いて真っ先に頭にうかぶのが「キリの良さ」でしょう。実際に学期や学年の変わり目から動き始める子がたくさんいます。その次は、遠足や運動会などの行事や短い時間で終わる日などの特別な日でしょうか。しかし、一方ではキリの良さや行事だけでは動けない子もたくさんいるのです。そんな子の中で多いのが「せっぱつまらないと動けない子」です。普段はイヤな事や不安な事を考えないようにしたり、「その気」になるまでに時間がかかるため、周囲の大人がいくら努力してもなかなか成果があがりません。ところが、そんな子は留年のタイムリミットや学期や学年が終わりに近づくと「もう後がない」と、にわかに焦りだすのです。

日常生活でのギリギリは?

ギリギリに動く子かどうかを見極めるヒントは日常生活にあります。特に「夏休みの宿題」「部屋の掃除」「入浴のタイミング」などが良い例です。40日前後もある長い夏休み。とうぜん宿題もたくさんでます。早めにやってしまう子、毎日コツコツと計画的にこなす子、二学期の間際になってようやく動きだして徹夜で仕上げる子・・。子どもさんはどのパターンですか。また、部屋の掃除はどうでしょうか。日頃からこまめに掃除する子、強くいうと片づける子、「明日中にしないと全部すてるわよ」とリミットを決めてようやく動く子・・・。お風呂のギリギリは「もうお湯をぬいちゃうよー」でしょうか。ギリギリに動く子は登校だけとは限りません。気の重たいことや不安なことはギリギリにならないと動けないのです。

ギリギリが絶好のチャンスです

子どもさんがギリギリタイプであればあるほど、親御さんの方がついついせかしてしまうといったパターンにおちいりやすくなります。しかも、皮肉なことに「早めにした方があとが楽よ」「いつもギリギリに苦労するんだから先にやっちゃいなさいよ」「テレビは宿題をすませてから!!」と、いくら言い方を工夫しても結果は変わらないのです。「留年」がかかってくる高校生ともなるとなおさらです。「カゼでもひいたらどうするんだ。せめて一週間ぐらい余裕を残さないと!」と親御さんや先生の焦りにも拍車がかかります。

ギリギリタイプの子は、ギリギリになってくるほど「その気」になってくると同時に、行動力もついてくるのです。逆に、日数や時間にゆとりがあるうちは「あと何日」だとわかっていてもその気になれない上に、周囲からはのんびり構えているように見えてしまいます。こんな子に対して一番気をつけないといけないのは、今の状態がこの子の結論だと決めつけてしまわないことです。ギリギリになっていざ子どもさんが重い腰を上げようとした時に、親子の関係や担任の先生との関係が冷めていたり険悪な関係になってしまっていると、不安な気持ちを打ちあけたり手助けをお願いすることができなくなります。

タイムリミットが間近に迫り「イライラ・そわそわ」してきた時がチャンスなのです。「だから早めに動けと言っただろう」という言葉をぐっとのみこみ、「ようやくその気になってきたか」と思ってしっかりと子どもさんの話につきあってあげて下さい。登校時の不安がどんどん出てくるはずです。もちろん、日ごろから些細なことでも気になることがあれば気軽に話せる関係が築けていれば、こんな苦労をせずに済みます。動くのはギリギリでも、親や先生に気兼ねせず不安を口にすることができます。こうすることで不安をしっかり出し切り、解消した上で登校することができるのです。

2019.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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