「どうしたらいいですか、どうしたら」。電話口のむこうでお母さんが叫ばれます。落ち着いて肩の力を抜いて考えてみると、いくらでも工夫できることがたくさんあるのです。
「前回面接で出されたアドバイスをやってみました。お父さんに強く出てもらったのです。私は知らん顔してました。せっぱづまってやってみました。そしたら由美はぷいっと出て行ってしまいました。これでいいのでしょうか?次の面接までまだまだ日があります。あの子は本当に普通の生活にもどれるのでしょうか?アドバイスどおりにしてみたのですが、これでいいですか。
一日一日過ぎてゆくのがおそろしく、手遅れになりはしないかと心配です。どうしたらいいですか、どうしたら。これでいいかアドバイスください。どんな一言でもいいから、電話でアドバイスしてください。お待ちしています」
こんな電話がクライエントの母親からかかってくる。せっぱづまっている様子は語調や息づかいから伝わってくる。しかしこの段階で電話でアドバイスをだすというリスク(危険度)を考えてみてほしい。母親の頭のなかはパニックにちかい。今何を言っても冷静な気もちでうけとめられないであろう。しかもこちらは情報不足。適切な判断をくだせない状態におかれている。「それではこうしてみてください」とだしたとしたらどうであろう。母親は「わかりました。さっそくそうします」と、その場はおさまるかもしれない。しかし翌朝必ずと言っていいほどまた電話がかかってくる。「先生の言われるとおりやってみました。事態はよけい悪くなりました。どうしたらいいですか、どうしたら」となるであろう。しかもアドバイスは決して十分に配慮した上で実行されはしていない。母親一人が先走ってからまわりして、という事が多い。
「お母さん、二ついいますから耳をほじってよーく聞いてくださいね。一つは困ったときはとにかくあったことをできるだけ正確に書き留めておくってください。二つ目はお父さんに相談して。お父さんと協力して事にあたるようにしてください」。これでたいていの混乱は収拾できるのだ。