今回、摂食障害(拒食症・過食症)に精通している、淀屋橋心理療法センターの所長・精神科医師の福田俊一が執筆した、拒食症の治療事例をご紹介します。摂食障害についての著書も多数執筆しており、41年の臨床経験がございます。 拒食症のお子さんをもつ親御さんがどのように対応すればいいのか。入院を拒否されたら?拒食症における、カウンセリング治療の意義などをお伝えしていきます。
目次
拒食症ケース・中学1年生の夏美さん
【ケース プロフィール】
夏美さん(仮名)当時・中学1年生
身長157㎝・体重33㎏
小学6年生の時、入院経験あり
入院時の体重 31㎏
夏美さん(仮名)は中学1年生、当センターに来所された時は、身長157cm 体重33kgでした。小学6年生のとき入院時の体重は31㎏。病院で拒食症と診断され、入院歴があります。
来月には、病院での診察があり、35㎏を割っていたら入院と言われます。
夏美さんは、「入院するの、いやだ」とパニック状態に。そんな娘を目の当たりにし、どうしていいかわからず母親は淀屋橋心理療法センターに相談、来所されました。
【拒食症の子ども】食事を取らせるのが難しい
拒食症の子どもは日毎にやせていくので、どの親御さんも心配でたまりません。「食べなさい」と言っても子どもはなかなか食べようとしません。心配のあまり余計に親は強くせまり、むりやり食べさせようとしたりすることがあります。
何回もそう言ったことが繰り返されているので、親子の間はギクシャクしていることがしばしばです。
かと言って親が、食の話題を避けたとしても、子どもの気持ちが緩んで食べられるようになるわけでもありません。食べるように言ってもだめ、言わなくてもだめという困難な状態が目の前に展開されていきます。
やせ細っていく子どもの対応には、命の危険がともなうだけに非常に難しい面があります。
子どもに「命の危険体重」をはっきりと伝える
拒食症のカウンセリングでは「体重が命の危険ラインに達していないか」、この点をはっきりさせておく必要があります。専門家のいる病院の診察をうけ「○kgが命の危険体重ですから入院ですよ」と、入院しなくてはならない体重を設定してもらいます。また体を維持していくために必要だと思われる検査をしてもらいます。多くのドクターは「血液検査、尿中ケトン体、心電図、血圧、脈拍」などを調べます。
拒食症のカウンセリング・病院とカウンセラーの連携体制が必要
カウンセラーは、夏美さんの状態についてくわしく聞いた後、通院していた病院の主治医の診断結果について確認をしました。
拒食症のカウンセリングでは、体のケアは専門医にお願いし、心理面やその他のサポートはカウンセリングでという態勢を設定します。 このように役割分担をして取り組むほうが、カウンセリングの効果があがりやすいからです。
(病院は、「命を救う」という役割が期待されているので、大変忙しく、カウンセリング体制がしっかり出来ている所とそうでない所があります。)
親が心配な気持ちから「食べろ、食べろ」と強く言っても、子どもはよけい頑なになって口に食べ物を入れることを拒もうとします。それよりも医学的にきちんとした数値を示してもらい、医師から「○ちゃんは、体重△kgを切ると、命が危なくなりますよ。だから入院することになります」と言ってもらったほうが、まだ子どもは聞く耳をもつと思います。ただし、これは体重をどんどん増やせるという意味ではなくて、最低限の体重を維持できるくらいと思っておいたほうがいいでしょう。むしろ心の面での変化があってはじめて、子どもは本格的に「体重が増えてもいい」と、思えるようになるのです。
このような態勢ができあがるとカウンセラーは、心理の面に集中して解決にあたりやすくなります。拒食症の子どもの場合「この体重では命が危ない」という状態に陥りやすいので、体の面を診る人と心理の面に集中する人を分けないとなかなかうまくいかないのです。それゆえ専門医との連携が不可欠なものとなります。
淀屋橋心理療法センターではこういうふうな治療のやり方で拒食症のカウンセリングに取り組み、多くの成果をあげています。
命の危険体重間近でも入院拒否する子どもの思い
体重が減り続ける夏美さんは主治医から次のように言われました。「夏美さんの命を守る体重は35kgです。この数値を下回ると入院しなくてはなりませんよ」と。
夏美さんはそれを聞いて「入院は二度といやだ」と、泣き叫んで拒否しています。1年前小学6年生のときに一度入院したことがあり、鼻腔チューブで流動の栄養を送り込まれたことがありました。「むりやり太らされるのは絶対いやだ」という思いから、しぶしぶ食べだして体重を増やし、退院にこぎつけたというつらい体験を夏美さんは決して忘れてはいませんでした。
意志に反してむりやりに鼻腔チューブで栄養剤を体に入れられて太らされるということに、夏美さんだけでなく拒食症の子どもは我慢ができません。じーっと辛抱して受けている子どももいますが、「太らされるのはいやだ!」と泣き叫び自分でチューブをはずしてしまう子もいます。
拒食症の子どもは何よりも「気持ち」を重視する
「体だけ太らされるのが、くやしい!」という言葉を、拒食症の人はよく言います。
親や医療関係者の人たちが、子どもを救うために鼻腔チューブや輸液で体重を増やす処置をすることがあります。命を守るということではとても大事なことなのですが、根本的な治療ではないことも事実です。拒食症の子どもは気持ちの方から変えていかないと、本当に拒食症を脱することができたとは言い難いでしょう。入院するかしないか、ギリギリの選択を迫られることはしばしば見受けられます。ギリギリで入院を回避して治る場合もありますし、入院して治療が順調に進む場合もあります。これらのケースについては、次回詳しくお伝えいたします。
次項では、入院を拒否する気持ちを上手に活かして、カウンセリングで拒食症を解決するポイントをご覧ください。
入院を拒否する気持ちを活用して・カウンセリングで拒食症解決を目指す
体重がどんどん減ってくる場合には、子どもに「ドクターに決めてもらった体重、覚えているよね。それより体重が減ったら、入院になるよ。鼻腔栄養チューブもあるのよ」と、子どもにはっきりと話しておきましょう。そして決められた体重を下回らないよう、子どもが自らの意志で食べ出すのを待ちましょう。このように心の面を下支えしながら、低体重から浮上するのを待ちます。
入院させるために体重を決めるのでなく、「入院しなくていいために決める」という発想で取り組んでいくと、「入院したくないから、体重を増やそう」という本人の自発的な意志で、体重が増えてくるということがよくあります。この自発的な意志というのが大事なのです。
しかしこれは最低限の体重を維持するということに役立であって、いくらこのやり方をしてもどんどん体重が増えるわけではありません。いのちを守る体重が守れたら、カウンセリングで自ら食べようという気持ちに変わっていき拒食症から脱するという解決を目指さないといけません。
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