質問2:自分の作った料理を、母親に食べるよう強要する

Q2:過食症の娘、香奈(25才)のことです。毎日料理をつくっては、私に「食べろ食べろ」と強要します。「吐き気がするから食べられない」と言うと怒りだし、食べ終わるまで私のそばから離れません。どうしたらいいでしょうか?

自分の作った料理を母親に食べるよう強要する娘、香奈(摂食障害 過食症 25才)

ケースの状況説明

お母さんは昨年から来所されセラピー(カウンセリング)を受けておられます。うつむいてじーっとしておられたので、「今日はどうされましたか。なにかお困りの事があるんではないですか?」と声をかけました。するとお母さんは「先生これ読んで下さい。本当に困っているんです」と、何かを書き留めたメモを渡されました。そこにはお母さんと娘の「食べろ、食べない」をめぐるすったもんだの様子が書かれていました。以下はメモに書かれてあった内容を抜粋したものです。

書かれていたメモの内容

「お母さん、できたよ。はやく来て」と、キッチンから香奈の声がします。「あーまただ。つくったものを食べろってきかないのよね」と、私は独り言を言いながら階段を下りていきました。「ほら見て、できたよ。はいどうぞ食べてね」と香奈はうれしそう。「ウワーッ、これーぜーんぶ食べるの」と私はうんざり顔。「そうよ。ぜんぶよ。早く食べてね。でないと私、安心して食べられないから」と声の調子が強くなってきました。見るとテーブルの上には二人前くらいのピラフを盛ったお皿がおいてあります。「これは多すぎるよ」「なに言ってるの。お母さんが全部食べるまで私、ここ動かないよ」「えー、そんなムリいわないで」と、いつもの押し問答が始まります。私はしぶしぶ食べはじめましたが「あー、お腹が痛くなってきた。オエッ」となり、「もう吐きそう。だめ、これ以上食べられない」と言いました。娘は恐い顔をしながら「じゃ10分たったらまた食べてね。どんなに時間がかかっても食べてしまって」といい残して、キッチンを出ていきました。

絶対に私に食べさせようとしてゆずらない娘に、どう対応していいかわかりません。食べた方がいいんでしょうか、それとも食べないほうがいいんでしょうか?教えてください。

A:アドバイス

「毎日食べなくてはいけないとなると、たいへんですね、お母さん」こう語りかけながらセラピスト(カウンセラー)は、アドバイスを話し始めました。過食症の人は食べる量の基準がわからなくなってしまい「お母さんがあれだけ食べたんだから、私も食べてもだいじょうぶ」と、安心感を得られる自分なりの法則を作っていたりします。

「子どもが過食症から治るためなら」とお母さんが我慢して食べられる気持ちはわかりますが、いくら食べたからといって過食症は良くならないしきりがありません。量がだんだん増えたりしてお母さんがしんどくなってしまいます。このメモにあるように母娘関係がぎくしゃくしだし、両者にとって良い結果にならないことがとても多いのです。本人にとってもその場はお母さんが食べてくれたことでホッとするでしょうが、そこから解決の糸口が出てきたりするものではありません。

長期目標としては徐々に改善していくことが大切ですが、香奈さんの場合はなかなかガンコで自分のやり方を変えようとはしませんでした。そこで当面は「辛抱しながらなんとか食べる」ということを続けながら、お母さんとセラピスト(カウンセラー)が協力しながら変化のチャンスを待つことになりました。機嫌のいいときを選んで「今月いっぱいは食べるけど、来月からは半分にしてね」とか、「お母さんお腹こわしちゃったから、今週は勘弁してね」といったふうに、香奈さんの納得を得られる方法で約束をしていきました。ゆっくりと香奈さんの気持ちを尊重しながらすすめたことが、このパターンにストップをかけていけたようです。

2009.01.21  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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