質問6:「家族いっしょの食事がいや。一人で食べたい」と言う娘に、不安な母親(幸美15才、過食症暦1年)

摂食障害(過食症・拒食症)の子どもをもつ親御さん、とくにお母さんが多いのですが、いろんな不安や疑問をお持ちです。カウンセリング相談(セラピー)をとおしてよく聞かれる内容とアドバイスを、まとめてお話したいと思います。

摂食障害(過食症・拒食症)の子どもをもつ親御さんの不安や疑問。

母親の不安 : 「過食症の娘が『食事は自分の部屋で、一人で食べたい』と言いいだして。 でもこれを認めると、娘のわがままがエスカレートしないかしら。 それに過食の量も増えないか、心配です。」

幸美、15才、過食症になって一年。

幸美(本人15才、過食症になって一年)

「夕食は家族そろって。でも落ち着きがなくて」

次女(幸美)の過食症のカウンセリング相談(セラピー)でのことです。お母さんがこう話されました。「幸美は、夕飯のあとたいてい自分の部屋で過食します。家族そろって食事はとるんですけど、いつもそわそわして落ち着きがないんです。姉と同じくらい一人前盛りつけてますので、それはきちんと食べます。けど毎回の夕食がなんかきまずい雰囲気になって、ハラハラしどおしです。どうしたらいいでしょうか」。

幸美はそわそわと心ここにあらずの様子で食事をするので、いつも父親とトラブルをおこすそうです。

父親:幸美、こんどの父親参観って、いつやった?お父さん、仕事の都合つけんとな。

幸美:えー、父親・・・こなくっていいよ。(めんどくさそう)

父親:そういうわけにはいかんやろう。学校から連絡メモがきてたやないか。

幸美:うん、メモね。あー、なんかきてたね。私、しらんよ。(食べるのに気を取られているようす)

父親:なんや、その言い方は。お父さんが聞いてるのに、ええかげんな答えばっかりやないか。

こんな調子で父親は幸美にたいしていまにも爆発しそうです。二人のあいだで母親は、ハラハラしながら毎回なだめ役をやらされています。楽しい家族団らんのはずの夕食時間が、いつもギスギスしたけんかごしの会話で終わっています。「なんとかならへんでしょうか。もう私、疲れてしまいました」と、母親は疲労感が高まってきた様子です。

ついゆだんから過食症を責める言葉を言ってしまって

そんなおり、幸美のほうから「みんなと一緒の食事はもういや。自分の部屋で一人で食事したい」と、言い出しました。「えー、そんな。あんたなんでそんなわがままなこと言い出すん。過食だけでも辛抱して大目にみてあげてんのに。せめて夕飯くらいみんなと一緒にできひんの?」。といったとたん幸美の顔はきゅうにきつくなり、母親を攻撃してきました。「お母さん、なによ、その言い方。『辛抱して過食を大目にみてあげてる』って、どういうこと。それがお母さんの本心なんやね。いつも『過食はしてもかまへんよ。そやけどあと片づけだけは、ちゃんとやろうな』ってゆうてるやん。やさしい声で。あれはウソか。ねこなで声でうそついてきたんか」と。

それから幸美の母親への態度がきつくなりました。過食をしてもあと片づけもしなくなってしまいました。「先生、もうあきません。私、これ以上がんばれません。なんとかしてください」と、とうとう母親のお手上げ宣言がでてきました。

セラピストのアドバイスをえて、父親に理解と協力を求める

母親:あんな、幸美が自分の部屋で一人で食事したい、ゆうてるんやけどな。きょう先生に相談してきたんや。そしたら『幸美がそうしたいゆうてはるんやったら、受け入れてあげてもいいんではないですか』、おっしゃって。

父親:そうか、先生がそう言われるんやったら、ええんやけど。幸美のわがままをなんでも許す、ゆうことにならへんかな。その点が心配なんやけど。

母親:それをな、ただ受け入れるだけにせず、『親子で話し合ってみてください。幸美さんの気持ちもお父さんのご意見もおたがいにだしあって。家族でいちばんいい方法を探し出すというのも大事なことです』ゆわはって。

父親:そうか。それもそうやな。幸美はそんな話し合いに応じるゆうてるんか。それが問題やで。いつもオレのこと避けてるやないか。

母親:そのこともカウンセリングでお話したんです。そしたら『もし難しいようだったら、ここへ来て下さい。ここでご家族三人、話し合っていただきましょう』、いわはって。

父親:そうか、それやったらなんとかなるかもな。よし、わかった。カウンセリングに行けるよう開けられる日にち、ちょっとみてみるな。

こうして幸美の過食症に父親の理解と協力を得られるきっかけができました。つぎのカウンセリングには父親も参加し、幸美の「自分の部屋で一人で食事をしたい」というテーマについて、三人でじっくりと話し合うことができました。どんなことでも「わがまま」とか「過食が増えるからダメ」ときめつけてしまわず、親子で話し合うきっかけにすれば、その後の風通しもよくなるでしょう。

2019.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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