摂食障害(過食症・拒食症)の子どもをもつお母さんからよく聞かれる悩みです。家計にも直撃する問題だけに、お母さんも真剣です。
母親の不安: 「過食症の娘が『食べ物を買うお金、これだけじゃとても足りない。なんとかして』ってしつこく言ってくるんです。でも「過食症がエスカレートしないか」心配だし、それに家計のこと考えると、もうこれ以上は出せないっていうのが本音で。」
典子(本人、18才高3、過食症になって2年)
「過食の食べ物買うお金が、少しづつせりあがって」
「お母さん、ちょっとまって。私もお買いものついていきたいから」と、典子の声がしました。「え、典ちゃんも行くの。わかった、まってるよ」。最近こんな会話ではじまって、ふたりで近くのマーケットへ買い物に行く回数が増えてきました。お母さんにはわかっています。典子が過食のための食材を買ってもらおうと思っていることが。「お母さん、これ買っていいでしょ」と言って、値のはらない食べ物をすばやく買い物カートにいれていきます。
過食の食べ物を買う金額は「一日千円」と決まっています。それ以外にお小遣いとしてひと月5千円わたしています。ノートや本の学用品、それにちょっとしたお化粧品を買う費用として使えるように。母親の心配は、この5千円がだんだん過食の費用にまわされてきていることです。もちろん典子はそんなそぶりはみせません。「今月は、参考書二冊も買わされたの。お金なくなってしまった」といったことを言います。「そう、参考書二冊じゃ、お金かかったね。それでその参考書はどこにあるの?」と聞きますと、「うん、まだ・・、あのー学校においてるの」と返事はかえってきますが、その言い方がなんか言いにくそうです。
「お小遣いとしてわたしているお金、ひょっとして過食の費用にまわされてるかも」と、母親は心配でたまりません。「もしや」と感ずいているのですが、はっきりとはわかりません。「どうしたらいいでしょうか。このままだと、どこまで食材を買う金額が増えていくのか、過食症がエスカレートしてしまうのか、不安で不安でたまりません」と、母親から相談がありました。
「過食の食べ物買うお金、これだけじゃ足りないよ」と本音が
セラピストからアドバイスをもらった母親は、思い切って過食の食材を買う費用について典子と話し合うことにしました。「典ちゃん、食べ物買う費用のことだけど、ちょっと話しあいたいの」ときりだすと、意外にも典子は「うん、いいよ。私も言いたいことあるから」と、のってきました。
「あのね、お母さん、今度の日曜日ね、由佳や愛といっしょにボーリングにいくことになったの。お金、ちょうだい。5千円あれば足りるかな。いいでしょ」と、またまたお金の請求です。母親は「またか」という顔をして、気分がゆううつになりました。でも言いなりになってばかりもいられません。きょうはセラピストからのアドバイスももらっているので、かなり強気です。「あのね、ひと月にね、過食の費用3万円以上は、出せないのよ。わかってね。家計の上限がきまってるんだから。一日千円がせいいっぱいの費用なの。この金額はずーと前に話し合って決めたでしょ。このごろ食べ物買うとはいわないけれど、あれやこれやでお金ちょうだいって言って、過食が増えてきているんじゃないの?」と、母親は強い語調でいいました。
典子は泣きそうになって「だって食べ物を買うお金、一日千円だけじゃ足りないよ。もっともっと食べたい。食べたくて、たまらなくなるんだもん」と叫びました。やはり母親が心配していたように過食が増えていたのです。
「過食のエスカレートを止めないと。今ならまだ間に合うよ」
典子の本音を聞いて、母親も涙がでそうになりました。でもここはふんばりどころです。過食の費用が増えていくと、お母さんが落ち込んでいかれるかもしれませんし、過食症全体にいい影響をあたえません。
「あのね、お母さん、典ちゃんのつらい気持ちわかるよ。でもね、食べる物が増えていくと、だんだん過食の量も回数も増えていくの。それだけ治りにくくなるし、あなたの体も痛めることになるのよ。それがわかってて、母親としてだまってお金を渡すことなんてできないの。なんとか過食がエスカレートしないよう、毎日はなしあいましょう。今ならまだ間にあいますって、過食症の専門の先生が言われたの。なんとかがんばって抑えていこうよ。お母さんも先生に相談しながら協力するから」。
典子は素直にうなずきました。「つらかったの。典子も不安でたまらなかったの。どんどん食べる量が増えていくんだもん。でもがんばってみる。過食がこれいじょう増えないよう、お母さんが専門の先生に相談しながら力をかしてくれるんなら、がんばってみる」と、答えました。その日から母と娘の「過食のエスカレートをストップ」する話し合いが始まりました。