症状を長引かせる気がつきにくい家族関係(1)親子の三角関係
両親が子どもを取り込んでいるし、子どももその役割に意義を感じている
こうした家族関係は、当事者はなかなか気がつきにくい。そのやり方で毎日の生活がすすんできているから。 この親子の三角関係というのは、他の症状にもよくみられる。両親が自分たちの問題をお互いに向き合って話し 合えない夫婦に多い。子どもに夫(妻)の悪口をこぼしたり、子どもを介して自分の意志を伝えようとする関係 である。子どもは自然の流れのなかで取り込まれるので、負担に感じないまま毎日をすごす。それどころか家族 思いの子どもであればあるほど、両親の問題に一役自分が担っていること、またそれで家族内の平和がたもてて いることに自分の存在意義を見いだしたりする。しかしこれがだんだん親子の関係にしんどさをもたらしてい く。過食症の家族をみていて、こうした親子関係が長年にわたってつづいていることに気がつくことがある。 次に紹介する加世子さんの一家もそうである。
症例:加世子28才小学校の教師過食歴5年来所して半年が経過
過食症になってもう5年になる。どこへいっても治らなかった。入院もしたけど、退院すると一月ほどすると またもとどおりに食べてしまう。そんな加世子さん一家を治療し始めて半年になる。どこに解決の糸口があるのか。試行錯誤の面接を重ねるなか、加世子さんの話しに耳を傾けているうちに「おやっ」と思うことがあった。 それは両親についてのことだった。
加世:お母さんと話ししてると、なんかけんかで終わってしまう。もう話ししたくないって思う。
セラピスト:過食のことであれこれいわれるから?
加世:それもあるけど。お父さんのことをね、いいだすんよね。まあ悪口というか不平というか。 はじめは「ふんふん」って聞いてるんだけど、だんだん腹が立ってきて。お父さんは私にとっては血のつながった大事な人なのに。その人のことを悪くいわれるっていい感じしないでしょ。
セラピスト:それはそうね。
加世:もう結婚して35年になるんだけど、その間の不満がたまりたまってるんだろうけど。私が聞き役をしてあげないと、お母さんももたないだろうし。
セラピスト:二人で話し合うってことはされないの。二人の問題は二人で解決っていいうのがいいんだけど。
加世:できない、できない。あの二人は。ずっとまえから私になんか言って、それから私がそれとなく顔色みて伝えるって形できてるから。あの二人は話し出すとけんかになるから。
セラピスト:その形はあなたがしんどくないかな。
加世:しんどいです。もうやめてくれって言いたい。けど私がいないとなー。
こんな話しがでてきて「これは典型的な親子の三角関係だな」と思った。家族が気がつかないだけに、このま までいくと加世子の過食症という症状は持続する恐れがある。難しいのは、改善のポイントがみえたからと いって、一気には変えていけないことだ。長年にわたって構築された関係だけに、少しづつ変えていける部分を みつけていくことがこれからの治療のポイントになるだろう。
2019.04.17 著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一
記事内容の監修医師
淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一
- 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
- 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
- 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
- その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
- 著書多数。
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