表情のない子でも、心のなかは豊かな子もいるよ
子どもは元来むじゃきで、表情がゆたかな者という印象があります。でも表情がないからと言って「この子は、子どもらしくない」と、決めつけてしまわないように。
不登校で来所していた佳子(小5)とお母さんの面接の様子です。「この子は、ほんとうにおとなしくてね。何をしてやっても表情がないんですよ」と、お母さんは少し不満げです。カウンセラーは、質問をいくつかしてみることにしました。
カウンセラー:お友達はいるの?
佳子:えーと、・・・。
母親:ほら、佐知子ちゃんと美樹ちゃん。いるじゃない。ほら、先生に、いますって答えて。
カウンセラー:どんな食べ物が好きですか?
佳子:・・・・・、おうどんと・・・。
母親:まあそんな、うどんやなんて。子どもらしくチョコレートとかケーキとか言わないの。
カウンセラー:朝起きるのは、一人でできる、それとも起こしてもらう?
佳子:・・・・・(黙ってうつむいたまま)
母親:この子、起きてこないんですよ。私がおこしに行っても、「もうちょと。すぐ起きる」とか言って。
三つの質問をしたあと、カウンセラーは母親に課題とアドバイスをだしました。
カウンセラー:お母さん、佳子さんとの会話はいつもこんなふうですか。
母親:はい、そうなんです。この子ったら、ちっとも答えないんです。みていただけましたでしょ。
カウンセラー:そうですか。それじゃね、一つ課題とアドバイスをだしますからそれを次回までにやってみてください。課題は佳子ちゃんの言った言葉を、逐語でノートに書いてくること。話された言葉そのままでいいです。黙っているところは、・・・を入れて。それからアドバイスは、佳子ちゃんが、話始めたら、お母さんは聞き役に徹すること。先々答えを言ったり、結論を言ったりしないように、気をつけてください。
母親:え、書き留めるんですか、この子の言葉を。そいで聞き役に徹するんですね。この子がなんも言わんでもですか?
カウンセラー:はい、そうです。5分たってなにも言わなかったら、お母さん、一言だけ言ってもいいです。この課題とアドバイスは、お母さんにとってかなりしんどいですよ。でも次回まで守ってやってみてください。
二週間後、同じような面接がもたれました。佳子の表情には少し明るさがでてきていました。カウンセラーが質問をすると、じーと考え込んで、ぽつぽつと答えだしました。ゆっくり、ゆっくり、一言一言かみしめるように。そして話終わると、しっかりと聞いているカウンセラーをみて、ニコッと笑いました。
『無表情』(別冊PHPより)
子どもは喜怒哀楽をすなおに表すのが一般的ですから、家で無表情な子というのは、とてもめずらしいことです。しかし、それだけに何かボタンの掛け違いがないか、親は点検してみなければなりません。 例えば、虐待されているような子どもの表情は、能面のようになることがよくあります。親の前で感情を出したらマズイという生活の習慣が、身についてしまっているからでしょう。
そんなことが思い当たらない場合でも、わが子が表情に乏しいと思うときには、もう一度生活を眺め渡してみてください。無表情な子ほど、表現したいものを抱え込んでいて、外に表したがっています。
生活を見ていくと、どこかでわずかでも感情表現をしようとしている様子があったり、意思を出そうとしていることに気づくはずです。親はそこを見逃さずにしっかり受け止めてやると、だんだん表現が増えてきたり,言葉数が多くなったりして、無表情が解決していくのです。
一般に素質というものは、両極端なものがセットとして備わっていて、無表情に見える子は心の中で表現したがっている、逆に表情豊かな子には、逆の心境も胸にしまているというように考えてもいいでしょう。
望ましい面をいかに引き出すかが問題なのですが、無表情といっても必ずどこかにわずかでも出ています。例えば「今日のおかず、なに?」と聞いてきたとき、ちょっと表情があったり、イヤなものに「えー」と言ったり、好物に「やったー!」と反応したりします。そういうとき「じゃ、またこのおかずつくるわね」と投げかけるなど、親子のコミュニケーションの機会として、たいせつにしていってほしいのです。