息子の暴力に悩むお母さんへの手紙─「見守りましょう」は落とし穴

拝啓、おたより拝見しました。

1月も終わりに近づき寒さもいちだんと厳しくなってまいりました。高校一年生の息子さんの家庭内暴力で悩んでおられるご様子、お察しいたします。ご参考になればと思い、当センターで対応した治療体験をもとに、私のアドバイスをまとめてみたいと思います。

感想は二つあります。一つは「なぜもっと早く相談していただけなかったか」ということです。中学一年のころからその徴候があったということですが、暴力はだんだんひどくなってきたご様子。他機関でカウンセリングを受けておられたようですが、「逆らわず、見守りましょう」というアドバイスがでたきりとか。「なんでこんな気休めアドバイスで、事態を収拾しようとするのか」と、憤りを感じています。どれだけ多くのご家族や本人が、この「見守りましょう」の言葉を信じて日時を過ごす間に、治るものも治らずこじれてしまったか。

もう一つの感想は「また家庭内暴力か。最近は多いなあ」というきわめてセラピストの立場にたった感想です。それほど今このケースは、「不登校や引きこもり」という状態を巻き込んで増えています。当センターで改善した事例をもとに、家庭内暴力をその度合いによって分けてみました。内容の緊迫度によって、治療の内容も親御さんへのアドバイスも変わってきます。

ステージ1:自制的暴力

暴力はふるいながらも、心の片隅で自制心が働いている。突然大きな声をだしてどなったり、そばにある壊れない物(本、クッションなど)を安全な物(ソファ、床など)にむかって投げたりする。

ステージ2:いやがらせ暴力

怒りの対象となる人の大事にしているものを壊したり汚したりする。父親の背広をハサミで切り刻んだり、母親の宝石類をどこかに捨ててしまったりというもの。

ステージ3:破壊的暴力

家中の家具をひっくり返したり、ドアや壁をけ破ったりする。手当たり次第に壊れる物(コップや時計など)を危険な物(テレビやガラス窓など)に向かって投げる。また後始末が大変な物(牛乳、醤油、卵など)をわざと部屋中にまき散らす。

ステージ4:対人的暴力

父親や母親にむかって殴ったり蹴ったり暴力をふるう。この段階で父親は家に帰れなくなり、別居せざるを得なくなったり、母親は腕を折ったり顔にあざができたりする。怒り出すと自制心がきかなくなるので、要注意である。

ステージ5:脅迫的暴力

1~4の暴力に加え、法外な要求を親につきつける。「三百万円だせ」とか「俺にマンションを買い与えろ」など。言うことをきかないと、包丁をもちだして暴れる。またふだんから部屋のあちこちに包丁やナイフを隠し持っている。

家庭内暴力のカウンセリングは、刻一刻を争う事態も頭にいれて、関係者(両親とセラピスト=カウンセラー)が一丸となって徹底的に取り組まないといけません。子どもの反応をみながら、アドバイスや対応を微妙に変えていく必要があります。はじめに目標をはっきりと定めます。このアドバイスを出して確かに荒れる回数が減ってきたとか、親に話しかける言葉数が増えたとか。また受け入れる時と、おだやかに説明するとき。また言いなりになったら図に乗ってくるときなど、つぶさに観察しながら判断していきます。まちがいのないアドバイスをお出しするために、日々の会話記録をつけていただきます。セラピストが、ご家庭での様子を正確に把握するためです。

家庭内暴力のカウンセリングは、とても「見守りましょう」で改善するものでないと、おわかりいただけますでしょうか。一日も早く御来所になり、家族療法で治療なさることをおすすめします。

敬具

2019.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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