第一志望の大学に合格しました!と、喜びもつかのま
中学一年のとき、ダイエットから過食症におちいってしまった。食べたり吐いたり、こんな繰り返しがもう七年も続いている。楽しいはずの青春を、自分はいったいなにしてるんだろう。着る物も我慢し、友だちとの約束もすっぽかし、ただひたすら食べ物を求めてコンビニやスーパーを買いあさってきた。
「私、もうだめです。立ち直れません。だって食べる衝動にはどうしても勝てないんですもの」。弘子はあきらめていた。自分が食べる誘惑をしりぞけられる日がくるとはとても思えなかったから。母親に引きずられるようにしてやってきた弘子は、セラピストにこう話した。あちこちの病院や相談機関をまわってはや六年がたっており、専門家不信の気持ちが根強かった。
「過食症と戦っても勝ちはないですよ。過食はとまりません。止めようとするのでなく、生活のなかにう まく落ち着かせることを考えていきましょう」と、セラピストはこう話した。過食に費やす時間や費用を母親も入って決めていった。後始末についても「やりっぱなし」「母親まかせ」を叱り、後になってもいいから自分で片づけるを目標にした。「過食にもリズムをつけましょう。生活のなかの一つのできごとって感覚で」。 「行動の崩れが悪化のバロメーターです。だから授業に遅刻したり、友だちとの約束をすっぽかしたりしだしたら要注意です。すぐにこちらに連絡をください」と、母親にも約束をした。
治療をスタートして10ヶ月がたった。「将来、自分のなりたいもの探し」の時間も設けた。過食症もなくなりはしないが、一日一回、夜9時から12時まで。それ以外はいっさい食べないといコントロールもできていた。「長かったけど、こんどこそ本当に立ち直れそうです」と、弘子も母親もうれしそうに話した。大学入試も「あくまでも『試し受験』の気持ちで」という条件付きで受けた。発表の日、弘子は「合格」の二文字を手にすることができ、母親と抱き合って喜んでいた。
ところがその後しだいに弘子は気分が落ち込んでいった。なんにもやる気がわかず、朝起きるのもしんどい。 4月からはじまる通学を考えるとしんどくなるというのだ。せっかく受かった大学なのに、はや登校できるかという問題がでてきた。やっきとなって「体力をつけないと。もっと食べて」と、母親がせきたてる。それをしてはいけないという約束で続けてきた面接だったのに、母親もあせっているのだ。「太らなければいけないってわかってるんですけど、じっさいに体重が増えているのに気づくと落ち込んでしまいます」と、弘子は話す。
過食症の人が頑張って立ち直りのきっかけをつかみかけたとき、うつの波が押し寄せてくるということはよくあることだ。この波をどう乗り切って次のステップにつなげるかが、次の面接の課題でもある。