うつ 親の関わり方 事例

<優しく、真面目でガンコな娘>

大学卒業後、会社で事務の仕事をしているミサさん28歳。入社以降、真面目なミサさんは現在の会社で一生懸命仕事をしてきました。ところが、1年前に部署が異動になってから、元気がなくなってきました。心配したご両親は「何か困っていたら相談してね。」、「部署を異動させてもらったらどう?」等と仰いましたが、ミサさんは聞く耳を持ちません。

お母さん曰く、「ミサは真面目で優しい子なんですが、すごくガンコなところがあって、人の意見をあまり聞かないんです。」

<とても思いつめた表情で出勤する>

辛くても頑張って出勤を続けていたミサさん。学生時代から我慢強い人だったようです。しかし、益々ミサさんの様子は悪くなっていく一方です。
夕方、職場から帰ってくると、辛そうな表情で自室へ向かいます。リビングにはあまり降りてきません。そして、朝はとても思いつめた表情で出勤します。そんなミサさんの様子を見て心配でたまらない親御さん。

<親としての関わり方を学びたい>

「一度、近くの心療内科に相談に行ってみない?」
お母さんは優しく、何度も提案されたそうです。しかし、「放っておいて」、「行っても意味があるとは思えない」とミサさんは聞く耳を持ちません。

どこに相談すれば良いか分からず困り果てた親御さんは当センターのHPを見て、悩んだ末、遠方から来所することを決意されました。それは、ミサさんの調子が悪くなってから1年程経過した頃でした。

初めて当センターへ来所された日、「親としての関わり方を学びたいと思いまして」と緊張した面持ちで仰ったお母さん。
「学びたい」という言葉を聞き、お母さんのモチベーションが高そうだな。もし実際にそうなら、良い結果が生まれる可能性は高いだろうとカウンセラーは思いました。
それから、お母さんは片道約2時間かけて当センターに通われることになりました。

うつ 親の関わり方 事例

ミサさんに現れ出した変化

お母さんが当センターに通われるようになり、ミサさんの性格に合った対応の仕方を覚えて頂くと、ミサさんに様々な変化が現れてきました。

<変化① 母親に甘えるようになった>

「お母さん、肩揉んで~」
兄、妹と比べて甘え上手ではなかったミサさんが、お母さんに甘えてくるようになりました。お母さんが肩を揉んであげると、「じゃあ、ミサが今度はお母さんの肩を揉んであげるね。」と言い、肩を揉みながら鼻歌を歌っているのでした。
今迄なかったことに、お母さんは驚かれたそうです。

<変化② リビングでテレビを見て笑うようになった>

「お母さん、肩を揉んで〜」と甘えるようになった頃から、リビングにやってくることが増えたミサさん。リビングのソファで、お母さんの横に座って、一緒にTVを見るようになりました。ある日、バラエティ番組を見ていると、「ハハハ」とミサさんが笑いました。「娘の笑い声を久しぶりに聞くことができました」とお母さんが報告してくださいました。

<変化③ テレビのニュースを見て、コメントするようになった>

テレビを見ている間は、ほとんど喋らなかったミサさん。
ところが、ニュースを見てコメントするようになりました。
「この事件の犯人は許せない!」、「この法律はおかしいと思う!」
ミサさんの言葉に力が出てきました。

<変化④ 職場の状況をより具体的に話し始めた>

これまで親御さんは、「会社で何があったの?」、「新しい上司と合わないの?」と、何度もミサさんから職場の状況を聞き出そうとしてきました。しかし、「放っておいて」と頑なでした。ところが、テレビのニュースにコメントをするようになった頃から、「課長はせっかちやから困る。課長が突然早口で質問してきて、私が即答できないと、ハーって溜息つくねんで。突然聞かれても、こっちにも心の準備が必要やん」、「今の部署は話しやすい人がいないからなー。私、孤立してるねん」などと自分から職場での困った状況を話すように変わってきました。

<変化⑤ 職場でうまく立ち回れるようになった>

ある日のこと。2人で夕飯を作っていると、「お母さん、私気づいてん」とミサさんが言い出しました。「課長が突然何かを聞いてきたら、『少しお待ちください』と言って、呼吸を整えてから返事するようにしたら、スムーズに答えられるようになってん。最近、課長にハーって溜息つかれることが随分と減ったわ」と笑顔を見せました。
また、現在の部署で「孤立」していると言っていたミサさんでしたが、「最近、年が一番近い子と話すようにしてみたら、共通の話題が見つかって急に仲良くなってん。職場の不満を話せる相手が1人いるだけで、こんなに気分が楽になるねんなー」と言うようになりました。ミサさんの表情は以前よりずっと穏やかです。
職場から帰宅すると、「疲れた」とは言いますが、「辛い」とは言わなくなりました。朝、出勤する時は、以前のように思いつめたような表情で出勤することはなくなりました。

<変化⑥ 強くなった>

ミサさんはとても元気になってきました。
ある日、親御さんと3人で食事をしていると、
「前なら、なんで私はこんなにできないんだろうと悩み続けることが多かったけど、最近は考え過ぎることを止めてん」と言い、親御さんは大変驚かれたようです。
随分と娘が成長したなと思ったお父さんが、
「そう、そう!考えすぎないことや。」と言うと、
「いや、お父さんはもう少し考えて行動した方が良いと思うよ。」と返してきました。

「夫が初めて娘に言い返されてました。強くなりました。」とお母さん。その横で「本当に。」とお父さん。なんだか嬉しそうです。
その後、ミサさんは以前のように元気に出勤するようになり、仕事帰りにはスポーツジムに通う元気も出てきました。

<カウンセリング終了>

カウンセリングには、ほとんどお母さんだけが通われました。毎回、面接時にはお母さんのご報告から、ミサさんがドンドン元気になってこられたなと感じていましたが、それと同時に親御さんも元気になってこられたなとカウンセラーは感じていました。最初来所された時と、親御さんの表情が全く違うのです。

最後の面接でお母さんは、こう仰って帰っていかれました。「カウンセリングを受けて母親の私が楽になったことで、娘も楽になったんだと思います。」

*この記事は、当センターにご相談に来られた複数のケースを基に書いており、個人が特定されないようにしております。

2019.09.27  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊介

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

シリーズ記事

シリーズ記事は見つかりませんでした。

関連記事

子どもの「非行」は親の対応で大きく変わる

不登校・非行・家庭内暴力専門外来ページも御覧下さい。ページ上部のボタンをクリックすれば表示されます。 次のチェックリストは、日常生活の中で見つけやすいチェック・ポイントを集めております。通常の医学的な診断基準とはことなり […]

子どものストレスチェックリスト 子供のうつ・ストレスを見つける

うつ病・抑うつ、職場のストレス専門外来ページも御覧下さい。ページ上部のボタンをクリックすれば表示されます。子育ての悩みページも御覧下さい。トップページに診療科目を紹介しています。 次のチェックリストは、日常生活の中で見つ […]

職場のストレス 働く男性・女性のストレス度

うつ病・抑うつ、職場のストレス専門外来ページも御覧下さい。ページ上部のボタンをクリックすれば表示されます。 次のチェックリストは、日常生活の中で見つけやすいチェック・ポイントを集めております。通常の医学的な診断基準とはこ […]

記事一覧へ