中学生の不登校の事例 ~弟にキツく当たる姉~

<スマホに夢中。弟にキツく当たる。>

中学3年生のマリコさん。4月から学校に全く行かなくなりました。家ではスマホでゲームをしたり、漫画を読んだり、youtubeを見ています。お母さんが話しかけても、スマホに夢中で会話が続きません。中学2年生の時は学校に行っていましたが、お母さんに対して暴力•暴言がありました。小学4年生の弟、ユウタ君にキツく当たり散らすのにも親御さんは悩んでおられました。

<不登校について沢山勉強されてきたお母さん>

真面目なお母さんは、不登校の本を何冊も読まれ、インターネットでも不登校に関しての記事を沢山読まれたそうです。その甲斐あって、当センターに来られた時にはお母さんへの暴力•暴言は治まっていました。しかし、「登校する気配は全く感じられません」とお母さん。ご自身だけの対応では限界があると感じ、当センターに来所されました。

不登校に関して沢山勉強されてきたからでしょうか。マリコさんへの接し方のコツをお伝えすると、お母さんの理解の早さに驚きました。対応を変えて頂いたことで、マリコさんに変化が見られるようになりました。

中学生の不登校の事例 ~弟にキツく当たる姉~

マリコさんに現れ出した変化

<変化① 漫画のあらすじを一生懸命説明しだした>

スマホを離さないマリコさんにお母さんが話しかけても、「分かった」、「うん」と返事があるだけで会話が続きません。それ以上話しかけると、「うるさい」とマリコさんは不機嫌になってしまいます。ところが、お母さんがマリコさんへの対応を変えると、会話が少しずつ続くようになってきました。お母さんが大きな変化だと感じられたのは、マリコさんが漫画のあらすじを最後まで説明してくれたことです。以前は面倒くさがって途中で説明をやめていたので「前とは違う」と思われたそうです。

<変化② 話をしている時は表情がイキイキ!>

学校に行けなくなってからも、稀に友達と外出するマリコさん。大好きなyoutuberのイベントに行ってきました。帰宅すると、イキイキとイベントについて語りました。「喋っている時の表情がイキイキしてる。身振り手振りも加わるようになりました。それと、言葉に抑揚が出て来ました」とお母さん。この頃から、キッチンにいるお母さんに近づいて来て、イキイキと楽しそうに喋る日も出てきました。

<変化③ 弟への態度が柔らかくなってきた>

弟のユウタ君に冷たい態度で接し、不機嫌な時は当たり散らしていたマリコさんでしたが、ユウタ君への態度が柔らかくなってきました。以前だとリビングのテレビはマリコさんがチャンネル権を持っていました。ユウタ君が「お姉ちゃんはスマホ見てるんだから、僕の好きな番組を見せて」と言うと、「うるさい」と一喝していたマリコさん。しかし、ある時から「いいよ」とテレビのチャンネル権を譲るようになりました。また、夕食の時にユウタ君と楽しそうに喋ったり、一緒にゲームをするように変わってきました。

<変化④ 同級生に出会うことに対して抵抗が減ってきた>

この頃になると、外出することが増えてきました。ある日、友達と近くの高校の文化祭に行ってきました。以前だと、同級生に出会うことをとても嫌がっていたマリコさん。しかし、帰宅すると、「あー文化祭楽しかった。同じクラスの◯◯ちゃんと、△△さんにも出会ったわ」と笑顔で言ったので、お母さんは驚かれました。また、この頃からお母さんがスーパーに行く時に、マリコさんもついて来るようになりました。

<変化⑤ 別室登校開始。学校の実力テストを受けた>

学校の話をすると、途端に顔色が変わってしまうマリコさんでしたが、この頃から担任の先生からの電話に出るようになりました。何度か先生と電話で話をした後、別室だと登校できる日も出てきました。また、別室ではありましたが、実力テストも受けました。テストを受けたのは、中学3年生になってから初めてのことでした。

<変化⑥ お母さんと揉めたが、仲直りをしてきた>

学校の話をしても、以前ほど不機嫌になることはなくなりました。お母さんが、「高校の説明会に行ってみない?」と聞いてみると、意外にも「うん」と返事が帰ってきたので、とても喜ばれたお母さん。

ところが、当日になって、「やっぱり行きたくない」とマリコさんが言いました。「行くって約束したやないの!」この数ヶ月、言いたいことを我慢していたお母さんも、この日は我慢できずにキツく言ってしまいました。怒って二階へ駆け上がるマリコさん。「これから数日間は不機嫌が続くんだろうな」とお母さんは落ち込まれたそうです。

ところがその日の夕方、マリコさんからニコニコと近づいてきて、「肉じゃがの作り方教えて〜」と言いました。「娘の方から仲直りしてくれました。しかも、その日の内に機嫌が治りました。以前とは全然違う。」とお母さんが仰いました。

<変化⑦ 受験勉強をし始めた>

ダンスと英語に興味があるマリコさん。なかなか答えが出ませんでしたが、ギリギリになって志望校が決まりました。お母さんが受験迄の勉強の予定表を作ろうと提案すると、「うん、作ろう」と乗ってきました。そして、今迄全く勉強しなかったマリコさんですが、1日2時間半程度勉強するようになりました。

「勉強しなかった子が勉強するようになりましたね」とカウンセラーが喜びを伝えると、「予定表通りに勉強を進めようと思ったら1日に4時間は勉強する必要があるんですが」とお母さん。「いやいや、今迄全く勉強しなかった子が2時間半も勉強してるんですよ。これは大きな変化ではないですか?」と伝えると、「まーそうですが」と少し不満げなお母さんでした。

順調に良くなってきていると、沢山の親御さんは、「次はこうなって欲しい」、「その次はもっとこうなって欲しい」とお子さんへの期待がドンドン膨らんで行くことがあります。

この日の面接の最後にお母さんが仰いました。「0だったのが2時間半になったのは確かに大きな変化ですね。数ヶ月前だったら考えられないことです。受験前なので私が焦っていました。」

<高校受験に合格>

2月中旬、お母さんから当センターに電話があり、「娘が無事志望校に合格しました」と興奮気味に仰いました。

後日、面接室にて詳細をお聞きしました。家に郵送で合格通知が届き、封を開けると、「いやっほーい」とマリコさんは喜んだそうです。近くにいたユウタ君が「お姉ちゃん、すごいね。頑張ってたもんね。おめでとう」と言い、2人で飛び跳ねていたそうです。「マリコが『あんなに素直に人のことを喜べるなんて。ユウタは可愛いな』と私に言いに来たんです」とお母さん。

マリコさんは中学3年時、家で時間を無駄にした訳ではありません。親御さんが対応を工夫されたので、学校に行けてない間に、ご家庭の中でしっかりと成長されていきました。その結果、自分で選んだ私学の全日制の高校に元気に通い、大好きなダンスと英語学習に一生懸命だそうです。

*この記事は、当センターにご相談に来られた複数のケースを基に書いており、個人が特定されないようにしております。

2019.11.07  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊介

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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