なにげない日常の中にある小さな幸せ

ある雨の日。駅の入り口では、傘をさした母親が、「ここ!ここよ!」と迎えに来た車に向かって笑顔で手を振っていました。運転しているのは息子。助手席を見ると父親が座っています。多くの人にとっては、なにげない日常の一場面でしょう。しかし、このご家族にとっては特別な場面でした。なぜならば、この20代の息子は、つい最近まで何年も自室に引きこもっていたからです。また、父親とはウマが合わず、高校生の頃から「おはよう」の挨拶すら交わさなくなっていました。

月が美しかった夜。大きな丸いテーブルを囲んでいるご家族。この日は女性陣だけのお茶会が盛り上がったそうです。参加者は、祖母、母親、長女、次女。みんなでテレビドラマを観ながら、お菓子を食べて、たくさんお喋りしたそうです。途中で父親が顔をだし、参加しようとしましたが、次女は「今日は女子会だから男子禁制だよ」と笑って、父親の背中をグイグイ押しました。父親も笑っています。これも多くの人にとっては、ごく普通の光景かもしれません。しかし、このご家族にとっては特別な場面でした。なぜならば、社交不安障害(対人緊張)の次女は、職場で気を遣っている反動で家族に当たり散らす為、母親以外の人は次女と交流するのをさけてきたからです。

ある晴れた日の朝。他のご家庭では、社会人の長男が久しぶりに帰省してきました。連休が終わり、長男が帰る際、高校生の次男も「手伝ってやるよ」と言って、家を出て行きました。マンションのベランダに立つ母親の目に映るのは、長男と次男が横に並んで歩いていく姿。次男が兄のスーツケースを引いています。多くの人には普段の光景かもしれません。しかし、このご家庭ではそうではありません。なぜならば、この兄弟は大げんかをして以来、何年もの間、お互いに口をきかなくなってしまったからです。長男はなんどか弟に話しかけようとしてきましたが、発達障害と診断されたことのある次男が長男を許せないままでいたのです。

私たちは、普段なにげない日常の中にいると、小さな幸せに気づけないことがたくさんあると思います。子育てなど、家族のことで大変な思いをしている時は尚更です。だけどふとした時に、「あー今、幸せだな」と気付かせてくれるのもまた、家族なのかもしれません。

2020.10.30  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊介

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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