摂食障害の低年齢化が目立ってきています。国立成育医療研究センターがおこなった調査によると、子どもの摂食障害の新規患者数が増加しており、それはコロナ禍以前の約1.6倍にのぼるそうです。
実際、当センターにご相談に来られている方々を見ましても、小学生の摂食障害、特に拒食症(神経性やせ症)のケースが増えています。
以前は、摂食障害は思春期以降に発症することが多いとされていました。しかし昨今では、前思春期(女子であれば初経前)に発症するケースが珍しいことではなくなっています。
低年齢での発症の場合、身体的成長に大きなダメージがある点がとても心配されます。つまり、大事な第二次性徴に遅れが生じてしまい、身長が伸びない(低身長)、初経が来ない、骨がもろくなる(骨粗鬆症)などの状態が起きる可能性があるのです。
<小学生の拒食症事例を紹介>
このようなことを踏まえて、2022年12月20日に開催した『親御さん向け拒食症治療説明会』では、低年齢で拒食症を発症した女の子の事例をご紹介しました。
こだわりが強い小学3年生のエリカちゃん(仮名)
・身長127cm/体重20.8kg
・不登校状態
・強迫行為あり(過剰な手洗い)
・外で遊ばなくなっている
性格は頑固、自分のやり方にこだわる、内弁慶
※ちなみに当センターに来所されていたのは親御さんのみで、エリカちゃんご本人は一度も来られないまま、拒食症が治っています。
まずカウンセラーは、ご家庭でのエリカちゃんとお母さんの様子を丁寧に聞き取っていきました。すると、見えてきたことがあるのです。
①親子間の会話が噛み合わず、揉めていることが多い
お母さんはエリカちゃんのことを思って、色々言ってあげたり、やってあげたりしているのに、それがエリカちゃんには伝わっていないのです
例:母「片付けておいたよ」
娘「これ終わってから片付けたかったのに!」
②親子間で話すことは用事のことばかりで、雑談が少ない
例えば「いつ出発するの」「何がほしいの」など、何かを決めなきゃいけないことについての話ばかりでした
カウンセラーはここに解決の糸口を見出し、エリカちゃんとの関わり方について、お母さんにアドバイスを始めました。
カウンセラー「エリカちゃんの場合は、??????というような対応をしてみてください」
??????のところは、説明会で詳しくお話していますので、ご興味のある方はぜひ参加してみてくださいね(^_^)
そのアドバイスを聞き、お母さんは“それならすぐに出来そう”と思われたようですが・・・。
10日後、カウンセリングに来られたお母さん。
アドバイスに沿った対応を実践してくださっているか、カウンセラーが確認すると「思ってたよりも、やってみると難しくて」とおっしゃいます。
そうなのです。
長年続けてきた子どもとの関わり方を修正するのは意外と苦労するもので、出来そうと思っても、いざ家庭で試してみると難しい。カウンセラーはもう一度お母さんにアドバイスをして、少しずつ新しい関わり方に慣れていってもらえるようお願いしました。
また10日後、カウンセリングに来られたお母さん。
「どうしてもクセが抜けなくて・・・」と自信なさげな様子です。
カウンセラーは
「いや、前回よりは良い感じです。だんだんと慣れていってくださいね」とフォローしていきました。
その次、またその次・・・とカウンセリングを重ねるにつれて
お母さんはエリカちゃんの関わり方のコツを着実に掴んでいかれました。
ここまで来ると、エリカちゃんに良い変化がたくさん見られるようになってきます。
・不機嫌になることが減った
・不機嫌になっても、その時間が短くなった
・雑談をすることが増えてきた
<拒食症治療の難しさ 食行動のことばかり気になってしまう>
そこでカウンセラーはまた新しいアドバイスを伝えました。
「雑談が増えてくると、良い変化がもっとたくさん起こってきます。エリカちゃんの話に興味を持って聞いてあげてください」
お母さんは「わかりました。興味を持つよう頑張ります」とおっしゃってくださいました。
しかし、その次のカウンセリングでカウンセラーが確認したところ、雑談があまり伸びていません。
実は、ここに拒食症治療の難しさが一つあるのです。
拒食症は皆さんご存知の通り、体重減少が激しく、入院治療が必要なこともある病気です。そんなお子さんを間近で見ている親御さんは、決して平常心ではいられません。
何とかして体重を増やしてあげたい。
これなら食べてくれるかな。
何で食べてくれないんだろう。
こんな風に食行動のことばかり考えてしまいます。
このお母さんも、やはりエリカちゃんの“身体が痩せていること”にどうしても気を取られてしまい、雑談というところに意識を向けづらいようでした。
「アドバイス通り、雑談を大事にしよう」「興味を持って娘の話を聞かなきゃ」と思っていても、いざエリカちゃんと接すると、身体のことばかり気になってしまう。
このような難しさを乗り越えるためには、やはりカウンセラーのような伴走者が必要だと思います。お母さんの不安な気持ち、正直な気持ちを打ち明けられる関係性のカウンセラーの存在は、治療を進めるうえで欠かせないものです。
お母さんがカウンセラーのサポートを受けて徐々に徐々に、エリカちゃんとの雑談にしっかり意識を向けられるようになってきた頃、エリカちゃんには
・外で遊び始める
・テレビに映った食べ物を観て「おいしそう」と言う
・1日2食だけれど、甘いものも口にするようになる
こんな風に変化が現れてきて、だんだん治療が軌道に乗ってきました。
しかし、油断は禁物です。ちょっとしたことがきっかけで、揺り戻しが起こってしまうことがよくあります。まだまだ慎重に対応していく必要があります。
<体重増加は治療が軌道に乗ってから>
さあ、だんだんと調子が良くなってきたエリカちゃん。
しかし親御さんが最も気になるポイントは、やはり体重増加についてだと思います。
ではエリカちゃんの体重はどのように増加していったのでしょうか?
カウンセリングを始めてから6ヶ月後には
20.8kg→24.6kgまで増加
からあげなどの揚げ物も食べられるようになっていました。
そしてカウンセリングを始めてから1年後には
体重26.8kgになり、週に何度か学校にも通うようになりました。
ちなみにこの頃には、強迫症状(過剰な手洗い)も治まっていました。
ここで注目してほしいことは
体重増加はすぐに起こるのではなく、治療が軌道に乗ってから起こっているということです。
親御さんが「体重が増えない」「前と全然変わってない」とナーバスになってしまうと、治療に身が入らなくなってしまうことは、先ほど述べたとおりで、このことはぜひ覚えておいていただければと思います。
<やせ願望のない回避・制限性食物摂取症にも留意して>
最後に『回避・制限性食物摂取症』についても少し触れておきたいと思います。
回避・制限性食物摂取症は、DSM-5で摂食障害のカテゴリーに加えられた疾患です。
拒食症(神経性やせ症/神経性無食欲症)や過食症(神経性過食症/神経性大食症)と大きく異なる点は、自分の体重や体型に対する歪んだ認知やこだわりが無いというところです。
つまり、強いやせ願望を持っていないのに、食べることを回避したり食べる量を制限したりするのです。
症状としては
・食べること、もしくは食べ物への明らかな無関心
「食べることに興味ない」「具合が悪くないけど食べるのは拒む」
・食ベ物の感覚的特徴に基づく回避
「食べ物のにおいが嫌」「食べ物の見た目や色が嫌」「口に入れた時の感覚が嫌」
・食べた後に嫌悪すべき結果が生じることへの不安
「食べて気持ち悪くなってしまうのではないかと不安に思う」「食べ物が喉に詰まってしまうのではと恐怖心がある」「学校の給食で、先生から完食するよう指示されたことによって不安が増加した」
このようなことによって、食べることを極端に避けるようになり
・体重減少(子どもの場合は期待される体重増加の不足、成長の遅延)
・栄養不足
・経腸栄養および経口栄養補助食品への依存
・心理社会的機能の著しい障害
が引き起こされてしまいます。
回避性・制限性食物摂取症は、大人よりも子どもに多くみられます。幼児期や小児期に発症することが多く、症状が長く続く場合もあり、大人になっても続くこともあります。
他の疾患としっかり鑑別したうえで診断し、早期治療することが求められます。
摂食障害の低年齢化がすすんでいる現在、摂食障害はもはや珍しい疾患ではなく、いつ誰が発症してもおかしくない身近な疾患だと言えるでしょう。
われわれ周囲の大人にできることは、子どもたちの変化にいち早く気づき、適切な治療へ繋ぐことであり、そのためには疾患に対する正しい知識をもっておかなければならないと思います。
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