不登校の中学生を支える親のヒント【カウンセリング事例】

不登校の中学生を支える親のヒント【カウンセリング事例】

この記事では、不登校の定義やタイプを解説するとともに、不登校の中学生・なつみさん(仮名)の事例を紹介します。

親御さんへのカウンセリングを通して、彼女の心が少しずつ成長していく過程をはじめ、不登校への親の接し方のポイントなどをお伝えするので、不登校を解決する糸口のひとつとして、ぜひご覧ください。

※この記事は、2023年3月28日に淀屋橋心理療法センターで行われた勉強会を基に執筆しております。

目次

不登校の定義は、年間30日以上の欠席

近年、急速に増えている小・中学生の不登校。しかし、そもそも不登校がどのような状態を指すのか、ご存じない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

これについて文部科学省では、

“何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由を除いたもの”
引用:文部科学省|不登校の現状に関する認識

と定義しています。つまり不登校とは、学校に行っていない状態を指し、けっして病気ではありません。

よく似た言葉に、「ひきこもり」があります。ひきこもりとは、様々な要因が関係した結果、社会的な参加(就学・就労・家庭外での交流)を回避し、原則6カ月以上家庭に留まり続けている状態を指すそうです。

出典:厚生労働省|ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン

このため、学齢期以上の人もひきこもりの対象となり、その期間も6カ月以上など、不登校とは条件に違いがあります。

不登校のタイプとは?中学生に見られる特徴

不登校にはさまざまな背景があり、年齢や子どもの性格によっても異なります。文部科学省の調査によると、小・中学生の不登校には、

・不安・抑うつ
・学校生活に対してやる気がでない
・生活リズムの乱れ

これら3つのタイプが多くを占めることがわかっています。
文部科学省(2024)「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」p.89

事例の中学生・なつみさんも、もとは活発な女の子でしたが、ある日突然、体が言うことをきかず、学校に行けなくなってしまいました。

親御さんはもちろん、本人も「どうしていいかわからない」状態のなか、お母さんが淀屋橋心理療法センターに来所されました。

親御さんへのカウンセリングを通して、なつみさんがどのように変わっていったのか、以下で詳しく見ていきましょう。

カウンセリング事例|不登校の中学生・なつみさん(仮名)

中学2年生のなつみさん(仮名)は、成績優秀で学級委員を務め、友達が多い社交的な子でした。

しかし、ある日突然、不登校になってしまいました。なつみさんは、

「なぜか体が動かない」
「自分でもどうして良いか分からない」

と、自身の現状に大変戸惑っている様子でした。その結果、困り果てたお母さんが、当センターに来所されました。

カウンセリング・最初の3ヶ月間は正念場

カウンセリングが始まって3ヶ月経っても、なつみさんに大きな変化は見られません。お母さんは焦りを募らせ、

「本当にこれで大丈夫なんでしょうか?」

と繰り返し訴えられます。しかし、カウンセリング開始から3ヶ月間は、小さな変化が多く、目に見える大きな変化が無い場合もあり、親御さんは不安になりやすいのです。しかし、ここが正念場なのです。

お母さんは不安に耐えながらも、辛抱強くお子さんと向き合い続けました。

「私ってこんな性格やねん」自分を肯定できるように

すると、徐々にですが、なつみさんの会話が増えてきたのです。以前は表情が暗かったのに、家の中がパアッと明るくなる位に笑うことも。

「お母さん、ギューッとして」と甘えてくるほか、

「学校では学級委員とか色々やってたけど、実は緊張してたんだ」などと、自分の弱い部分を見せるようにもなってきました。

これまで「私ってなんでいつもギリギリになって慌てるんだろう」と自分の特性に悩んでいたなつみさんでしたが、

「私ってこんな性格やねん」

と、自分を肯定できるようになってきました。

感情をコントロールでき、心が成長したなつみさん

少しずつ、自分自身を肯定できるようになってきたなつみさん。お母さんも、そんな彼女の変化に気づきます。例えば、

・嫌なことがあっても引きずらないようになってきた
・自分の部屋にこもっても、わりと早く出てくる
・ケンカした後、謝って仲直りを求めてきた

といった行動です。これらの共通点は、感情をコントロールし、うまく切り替えられるようになっていることです。つまり、なつみさんが精神的に成長していることがわかります。

不登校と向き合う親の対応、3つのポイント

なつみさんのケースから、不登校のお子さんと向き合われる際に、親御さんに意識していただきたいポイントを紹介します。

子どもの性格を認める

まずは親御さんがお子さんの性格を理解し、認めてあげることが大切です。なつみさんのお母さんは、テキパキと行動し、なんでも前もってキッチリやりたいタイプの方でした。

そのため、何事もギリギリになってしまうなつみさんの性格を認められずにいました。しかし、なつみさんに大きな変化が見られるようになると、

「まだ学校に行けてないけど、この方向で良さそうだな…」

と思えるようになり、不安が減って心が楽になってきました。

そうすると「自分と娘は違うんだ」と、子どもの性格を認められるようになったのです。

小さな変化を見逃さない

お母さんが、なつみさんの小さな良い変化を見逃さなかったことも重要なポイントです。親御さんが不安や心配で心がいっぱいだと、小さな良い変化を見逃してしまいます。

カウンセリングを継続することで、気持ちに余裕ができたお母さんは、冷静に現状を把握できるようになっていました。

荒れる波が来ても慌てない

カウンセリングを続けるなかで、「良くなってきている」と思っていても、突然荒れる波が来る場合があります。なつみさんも順調に良くなったわけではなく、心の状態には波がありました。

「なんで私、学校に行かれへんのやろ!」
「学校なんて、もう絶対に行かない!」

などと言って、親御さんに八つ当たりしてくることもあったのです。

淀屋橋心理療法センターのカウンセリングでは、お子さんの状態には波があることを、あらかじめ親御さんにお伝えしています。

お子さんが荒れるときがあったとしても、親御さんが落ち込むことはありません。経過のひとつと捉え、慌てずに接してあげてください。

不登校のお子さんをもつ親御さんへ、精神科医・福田俊一からのアドバイス

ここでは、勉強会の内容のひとつである「Q&Aコーナー」から、その一部をご紹介します。

Q:不登校の子は春休みをどう過ごしたらよいか、親の接し方は?

中2の息子が不登校で、家で勉強しています。息子は、「一度不登校になり同級生と顔を合わせづらい。3学期は行けないけど、クラス替えのある4月から行きたい」と言っています。本当に、これで良いのか悩んでいます。

また、春休み中はどのように子どもに接すれば良いでしょうか。

A:罪悪感なく外出しやすい春休みを活用しましょう

不登校の子は、登校できないことに罪悪感を持っているものですが、休み中は罪悪感を持たずに外出しやすいので、これを活用すべきです。

とにかくお子さんの話に付き合って、イベントなどを設け、ネタを作り、話が盛り上がるようにします。お子さんがある程度喋れるなら、本人のペースを崩さないように「返答の仕方」や「タイミング」を工夫してみて下さい。

4月から登校できれば良いですが、登校できなくても「行こうと思ったんだけど気持ちがついてこなかったんだね」などという会話ができれば、お子さんの罪悪感もだいぶ減るでしょう。
喋りを上手く伸ばせば「学校に行こうという理性と、行きたくないという気持ちの両輪」が「学校に行こうという理性と、行きたいという気持ちの両輪」に変わり、再登校の可能性が高まるでしょう。

Q:不登校の子にかける言葉は?友達と連絡を取るよう促す声かけをしてもよい?

娘が中2になってから徐々に学校を休むようになり、友達ともやりとりが減って、あまり遊ばなくなりました。

春休み中に友達と連絡を取ってくれたらと思うのですが、そのような声掛けをしても良いでしょうか。

A:声かけに対する子どもの反応パターンをつかみましょう

お子さんによって声掛けに対する反応は異なるので、パターンを掴むために、例えば、「子供が渋る小さな頼みごとを、強くお願いしてみる」とどうなるか、試されてはいかがでしょうか。

具体的には、「タオルはいつもここにかけてね」とか。お願いしてみたら険悪になるのか、そうではないのか。少しずつ試してみて、子どもの特徴を掴むことはとても大事なことです。

普段はお子さんの話題にうまく付き合い、乗った時の波を高める努力が必要です。大きく高めるためには、専門家のアドバイスもあった方がよいかもしれません。

我々は、お子さんの情報をもとに精密なアドバイスをします。もし上手くいかなかったら、専門家へ相談することも考えてみて下さい。

Q:不登校の子どもの、不安な気持ちや悩みを話してもらうには?

中学生の息子は、あまり勉強せず、ゲームばかりしています。自分から漫画やゲームの話をすることはありますが、不安に思っていることは口に出しにくいようです。

ついつい「困っていることはないの?」と答えを求めるような声掛けをしてしまいますが、本人の口から不安に思っていることをうまく引き出す方法を教えて下さい。

A:まずは「好きなこと」を話せる親子関係を築きましょう

親は目先の不安にかられて、ついつい「どうしたの?」「ちょっとは勉強した?」などと言ってしまいがちです。

しかし、そうすると子どもはどうしても受け身になってしまいます。能動的な姿勢にもっていくのは容易ではありませんが、それが実現すれば、大きな成果が得られます。

努力のポイントは、日常の親子の関わりの中にあります。まずは「好きなこと」を喋れるようにしましょう。好きなことをしっかり喋れるようにしていくと、登校の不安なども話せるようになってくるでしょう。

「うちの子どもは良く喋るけど、不安は言えないんです」

そのような場合は、専門家にご相談ください。当センターでは、効果的な治療として、親子の対話方法についてアドバイスしています。

勉強会に参加された親御さんの声

最後に、勉強会に参加された親御さんからの感想を紹介させていただきます。

親の対応について、本当に必要なことがクリアになったというご意見や、自主性を育てること、親子の会話を大切にすることが重要だと気づいたとの声が寄せられました。

不登校について、自分で調べるだけでは分からないことが多かったけど…

不登校について、自分で色々調べたりしていましたが、情報量が多くて、どれが正解か分からないままでした。

説明会に参加して、本当に必要なことは何なのか、そこに至るステップまで腑に落ちる形で教えて頂いて、すごく助かりました。

ケース紹介も、最初は「うちの子と違う例を聞いてもな…」と思っていたのですが、実際は共通するポイントが多々あって勉強になりました。

不登校の子に対する接し方が参考になりました

先生は「自主性を育てる」「心の成長を促す」ということを強調しておられ、子どもに対する接し方として非常に参考になりました。

不登校の子どもへの必要な対応がわかりました

お話を聴いてハッとさせられることがありました。子どもがたくさん話をすること、話せるようになることが大切なのだと気づきました。親子の会話が大事なんだと改めて思いました。

不登校の悩みは、専門家へ相談することで対応のヒントが見えてきます

子どもの不登校は、親御さんにとっても非常につらいものです。どう接したらいいのか、不安や戸惑いを感じられることも多々あると思います。

まずは、親御さん自身が正しい知識を得ることです。お子さんに対する適切な接し方を身につけることで、少しずつ前に進める可能性が高まります。

また、お子さんの性格を受け入れ、小さな変化にも目を向けてみてください。その積み重ねが、よりよい状態に繋がります。
今回の勉強会が、不登校に悩んでおられる親御さんにとって、お子さんとの向き合い方を考えていただくきっかけとなりましたら幸いです。
当センターでは、独自の不登校タイプのチェックリストを公開しております。ぜひご覧になってみてください。

>>>【うちの子の不登校で何がわかるの?】【もし、うちの子が不登校になるとしたら、どのタイプ?】

更新日:2025年04月24日

2023.04.18  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》公認心理師 益子玄一郎

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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