子どものカウンセリング:成長を見極めるポイント

子どものカウンセリング:成長を見極めるポイント

お子さんの悩みに心を痛めておられる親御さんが当センターに来所され、
カウンセリングを始めてしばらく経った頃、
カウンセラーの視点ではお子さんに 良い変化が起きはじめていて、
これはチャンスだ!と感じる時期に、
「最近、うちの子の状態(症状)が悪化して・・・」と
親御さんから、 ひどく沈んだ声でご相談いただくことがあります。
残念ながら、カウンセラーにはチャンスだと見えることが、
親御さんにはチャンスに見えていない(気づいていない)ことがあるのです。
それどころか、せっかくの チャンス
親御さんが 「ピンチだ」と真逆に捉えていることがよくあります。

チャンスだとわかるからつかみに行こうとするわけですが、
チャンスだと分からなかったら、チャンスを見過ごし、
成果を出せないという 残念なことが起こります

ここでは 親御さんたちがチャンスを見逃さないように、
ピンチだと誤解されやすいチャンスの代表例を3つご紹介します。

臨床心理士が見たカウンセリングの流れ

① 突然、不安を言い始めた

例:20代の引きこもりの男性

家でゲームをしていることが多いのですが、
カウンセリングが順調に進み、笑うようになったり、外出が増えてきました。
ところが、ある時から突然不安を語り出すようになりました。
「あー 将来が不安だ」 と暗い表情で語ったり、
「俺みたいなやつがどうやって社会でやっていけるんだろう・・・」と 珍しく涙を流した。

それまで不安な様子を見せなかった息子が急に 不安な様子を見せるようになれば、
「状態が悪化したんじゃないか」と思われる親御さんも少なくないことでしょう。
しかし、カウンセリングを続けている中でこういう状況が起こる場合、
息子さんが元気になり、気持ちに余裕が生まれた為、
これまで見ないようにしていた現実を見ることができるようになった

(現実逃避を止めた)。
そのため、不安に襲われるようになったという場合があります。
もしそうであれば、
不安な様子を見せるようになったのは前進している証拠です。
この時、うまく息子さんの不安を聞いてあげたら、
引きこもりや ゲーム依存 の状態からの卒業が近づくでしょう
一方で、 「息子の状態が悪化した」と親御さんが 焦ってしまうと、
せっかくのチャンスを逃すことになってしまうかもしれません

② 穏やかだった子がイライラを見せるようになった

例:不登校の中学2年生の女の子

とても優しくて気遣いの多い子で、
これまで 家で同級生の悪口をほとんど言わない子でした。
しかし、ある時から 突然
「A ちゃんは自己中でイライラする」と声を荒げたり、
「B ちゃんには合わせてきたけど、ほんとは嫌いや!」 と言い、
机をバンと叩いたりするようになりました。

親御さんとしては これまで優しい面しか見せてこなかった娘が、
悪口を言ったり、イライラしてる様子を見せ出したので、
状態が悪化したと捉えるわけです。
しかし、カウンセリングが順調に進んでいる中で起きたことならば、
優しかった子がこのようなイライラを見せ始めたのは、
抑えていた本音を出せるようになってきたのかもしれません。
もしそうであれば、これは喜ぶべきチャンスです。
このチャンスを活かして、さらにお子さんを成長させるのです。

③ 発言の仕方が変わって来た

以下は、 中学3年生の不登校の男の子、セイジ君(仮名)の発言です。

散らかった自室でスマホばかり見ていたセイジ君でしたが、
カウンセリングが順調に進んできている為、
リビングに出てくることが増え、親子の会話は増えてきました。

セイジ
「AI の技術が今すごい速さで進化してるよね。
そのうち AI は感情も持てるようになるだろうね。
いや、感情を持つというよりも、あたかも感情を持っているように
振る舞うんだろうね」
母親
「よく知ってるね」
セイジ
「いや、 YouTuberが言ってたんだけどね。
実は 最近 AI に関する動画を結構見てるんだ」
母親
「へー、そうなんだ」
セイジ
「まあ、世の中のほとんどの仕事を AI ができるようになるだろうし、
医者や弁護士も AI にとって変わる なんて言ってる人もいるから
正直 受験勉強する意味なんてあるのかな と思う時もあるけどね。
頑張るっていうことに意味があるのかな?
それは頑張ることによって、その分評価されるんだったら
頑張ろうと思うかもしれないけど、
これからの時代、頑張って意味があるのかな。どうなんだろうね」

皆さんはこのセイジ君の 発言を読まれてどう思われましたか?

努力をしたくない 楽をしようとしている発言であり、
独りよがりな意見で、相手のことを考えず偉そうに話していて、
セイジ君の状態は良くない
と思われた方は 少なくないのではないでしょうか?

では次に、セイジ君の半年前のセリフを読んでみて下さい。

セイジ
「 最近の AI ってすげー 進化してるわ」
母親
「 そうなの?」
セイジ
「 うん。」
沈黙10秒
母親
「AI のどんなところがすごいの?」
セイジ
「 う~ん。まあいろいろすごいよ」
母親
「色々ってどんな?」
セイジ
「・・・・・」ゲームに夢中

回復のチャンスを見逃さない

半年前の会話と比較して いかがでしたでしょうか?

多くの親御さんは会話の内容に注目されます。
会話の内容だけを見ると、 最近の会話を見た感じ、
セイジ君に頑張ろうという気持ちが見えず、怠け者だ!と
イライラしてくる方も少なくないでしょう。

しかし、 半年前の喋り方と比較してみると、
自分の意見や考えを主張している
ことがよくわかります。

セイジ君の楽をしようとしてるかのように聞こえる発言に親御さんが焦り、
それに対して 注意をするなどすると、セイジ君の状態が悪化してしまうかもしれません。
一方で、 これが前進しているとわかれば、
親御さんは落ち着いてセイジ君の性格に合った対応ができ、
セイジ君がさらに自分の意見や考えを話すことができるようになることで
次のステージへ進むことができるでしょう。

チャンスがやってきた時、それがチャンスだとわかる。
そうすれば、チャンスは掴みやすくなるでしょう。

2023.12.09  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》臨床心理士 福田俊介 スタッフ 原田友美

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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