不登校カウンセリングで解決した事例:個性が強く、父親と兄を嫌う子

不登校カウンセリングで解決した事例:個性が強く、父親と兄を嫌う子

淀屋橋心理療法センターのライターで公認心理師の益子です。親御さんだけのカウンセリングで、不登校のお子さんにどのような変化がみられたか実際のケースを取り上げました。不登校のカウンセリング、またその回復の様子をご覧ください。

不登校のカウンセリング・中学2年生女子のケース

ゆずさん(仮名)は、中学1年の6月から全く学校に行けなくなってしまいました。自室にこもって、ゲームばかりしています。ゆずさんは、興味のあることにはすごく頑張れるのですが、興味のないことや苦手なことは頑張れません。とっても気分屋さんで、気分が乗らないと動けないのです。お母さん曰く「幼い時からとても育てにくい子」「変わった子」だそうです。

家族構成は、両親と兄の大樹さんの4人家族です。

また、兄の大樹さんとお父さんのことをとても嫌っていて、全く話そうとしません。ゆずさんとお母さんが楽しそうに話している時に、お父さんが会話に入ろうとすると、「話しかけてくるな!」と怒るのです。「家庭の空気がピりついていて、しんどいです」とお母さん。

兄の大樹さんにも問題があり、不登校ではありませんが、しばしば不機嫌になり、怒鳴ったり、家族に八つ当たりをします。また、不登校のゆずさんに向かって「役立たず」「クズ」などと罵ります。

変化1 良く喋るようになってきた

カウンセラーは親御さんにお子さんへの関わり方をお伝えしています。お伝えした対応を学ぶのが早いお母さんもいらっしゃいますが、ゆずさんのお母さんは苦戦されました。頭で分かっていても、クセがなかなか抜けないのです。頑張って通ってくださり、ゆずさんへの対応に慣れてくると、会話量が増えてきました。ゆずさんは些細なことで不機嫌になり、部屋にこもってしまうことも多かったのですが、お母さんが、ゆずさんと揉めてしまわないコツを覚えられたのが良かったと思われます。

例えば、ある日、お母さんは、お昼ご飯に焼きソバとおにぎりを出してあげました。それに対して、ゆずさんは「焼きそばとおにぎりは合わないよ」。以前なら、お母さんは「お昼ご飯を作っておいてもらって、その態度はおかしいよ!」と揉めていたのですが「ごめん、ごめん」とうまく対応されました。すると、ゆずさんが部屋に引きこもることが大きく減りました。

ゆずさんが好きなゲームをお母さんもするようにした事も功を奏し、ゆずさんはゲームの話題を楽しそうに語るようになりました。

しかし、兄の大樹さんやお父さんとは会話をしたくないようです。ゆずさんとお母さんが楽しく会話をしている時に、お父さんが会話に入ろうとすると「会話に入ってくんな!」と叫ぶのです。

変化2 機嫌が良くなってきた

さらにお母さんとゆずさんの会話が増えると、ゆずさんがイライラしている場面が減ってきました。冗談を言うのが好きなゆずさんに対して、お母さんが真面目に回答をすることをやめたのも良かったようです。例えば、(娘)「もうすぐ誕生日だ。車が欲しい」と言ったゆずさんに対して、以前だと(母)「あなた、まだ中学生でしょ」と答えていたのが、(母)「ハハハ、どんな車が欲しいの?」と返せるようになりました。

他には、以前だったら怒っていたことでも(娘)「いつまでも怒り続けても仕方ないよね」と言うようになりました。譲歩することが出来るようになったのです。家庭内での楽しい会話が増え、機嫌が良い時間が増えると、心に余裕が出てきたようです。

一方、同級生に対しては未だに悪いイメージを持っているようです。学校の話になると、同級生のことを「クズ」「あんな奴ら」という風に険しい顔つきで表現します。

変化3 掃除をするようになった

ゆずさんのように、気分に強く左右される性格の持ち主は、気分が良いと行動が活性化します。この頃、機嫌の良いことが増えたため、掃除や片付けが苦手でしたが、自室の掃除をするようになり、次にリビングやトイレの掃除もするようになりました。定期的に掃除をする、というのは苦手なようですが、気分が乗ると良い動きをします。

機嫌の良いことは明らかに増えました。一方で、まだ兄の大樹さんやお父さんのことを強く嫌っています。さっきまで機嫌が良かったのに、兄や父が近くにやってくると、不機嫌になり一言も喋ろうとしません。

変化4 エネルギーが溜まってきた

ゆずさんは「最近ヒマだ」と言います。良い傾向です。ずっと家にいるのがしんどいと思えるぐらいエネルギーが溜まってきたのでしょう。

この頃になると、ゆずさんが不機嫌な時間がとても短くなりました。ゆずさん自身も成長してきたし、お母さんの対応も上手くなっているのです。「最近、娘との付き合い方が分かってきました」とお母さんが笑顔で仰いました。お父さんもお母さんに対して「ママ、最近ゆずへの接し方が上手いよな」と仰ったそうです。

でもまだ、ゆずさんはお父さんや大樹さんと話す気はなさそうです。「娘は変わってきました。だけども、家庭の空気はまだピりついていて」とお母さんが困った様子で仰いました。

変化5 兄との関係が良くなった

ここにきて、ビックリすることが起こりますした。ある日、大樹さんとお母さんが笑っているところに、ゆずさんが入ってきて「その話、めっちゃ面白いんだけど!」と笑いました。その日以降、インスタグラムを見て「この人面白いよね」と兄妹で盛り上がるようになりました。これまで犬猿の仲だった2人。カウンセラーもこのエピソードをお聞きして驚きました。

最近は、「ゆずよりも、だいきの方に手がかかるぐらいです」とお母さん。ゆずさんの機嫌が良いことが多く、手がかからなくなってきたので、大樹さんのことの方が気になるようになってきたそうです。朝から不機嫌で、当たり散らす大樹さんに手を焼いているお母さんの姿を見て(娘)「お母さんも大変だね」と、初めてねぎらいの言葉をかけてくれました。

そして、ついに。ゆずさんが週2回、2時間程度ですが、登校を始めました。

変化6 父親との関係が良くなった

これまたビックリすることが起こりました。テスト前にお父さんに対して(娘)「勉強教えて」と言ってきたのです。職業がエンジニアのお父さんが理科の電流について説明してあげると、ゆずさんが「やっぱりプロの説明は良いよね」と言ったそうです。カウンセラーは驚き、「そのセリフは、本当にゆずさんが言ったんですね?」と確認するほどでした。娘さんが喋ってくれて、お父さんは嬉しかったでしょうね!

「ゆずが喋ってくれたからって、油断していっぱい話しかけたりしちゃだめよ」と家でお父さんに釘をさすお母さん。対応がお見事です!

変化7 社交性が出てきて、友達が増えてきた

9月に入り、新学期が始まると、学校に週に3日通えるようになりました。今度は友達ができるか、お母さんは心配されていましたが、意外にも早い段階で何人か友達ができました。思った事をオブラートに包まずそのまま言ってしまったり、忘れ物が多かったり、個性の強いゆずさんのことを「面白い」と評価してくれる良い友達ができたのです。これはとてもラッキーでした。

しかし、学校に通いだすと、問題も起こります。女子生徒で、ゆずさんに対して皮肉を言ってくる子が出てきたのです。その子のことを頻繁に話題にし「あいつムカつく」とゆずさんが家で不機嫌になってしまうこともありました。

変化8 不登校だったが、学校に行けるようになった

カウンセリング開始から約1年後。中学3年の4月からは、ほぼ無遅刻・無欠席で教室に登校できるようになりました。授業にもついていけるようです。修学旅行にも行くことができました。

個性の強いゆずさんですが「変な子」ではなく「面白い子」と評価してくれる友達に囲まれています。「マスター」というあだ名で呼ばれるようになり、本人もそう呼ばれるのがまんざらではないようです。皮肉を言ってくる生徒に関しては「あの子は、あんな子だ」とあまり気にならなくなったようです。これはすごい成長です。

元気に登校するようになってしばらくして、彼女はお母さんに対してこんなセリフを言ったそうです。

「なんで私、去年は学校に行けなかったんだろう?」

また他にも名言を残しています。人と違う事をすごく気にしていた彼女がある日、笑顔でこう言ったそうです。「人と違うって最高!」

この日から約2カ月後、安心されたお母さんはカウンセリングを卒業されました。

担当カウンセラー 臨床心理士 福田俊介による振り返り

カウンセリングを始めた当初、ゆずさんも兄の大樹さんも不機嫌なことが多く、フルタイムでお仕事されているお母さんはストレスまみれの状態でした。そんなお母さんが素晴らしかったのは、ストレスを明るく上手に発散することで、子ども達に優しく接することができていた点です。「『ノートを買ってきて』と言われたから買ってきてあげたら『私が欲しいノートはこんなんじゃない!』とノートを投げられた時には、ボコボコにしてやろうかと思いました(笑)」と面接室で私に対して明るく発散されるのです。また「通勤中の車の中で『ムカつく!』と一人で叫ぶこともあるんですよ(笑)」と笑って仰っていたのも、私にとって印象的な場面です。しんどい状況を明るく乗り越えた素敵なお母さんでした。

また、このケースで印象的だったのは、ゆずさんの人への認識が変わっていったことです。個性が強いため「変な子」という風に否定されてきた経験が多かったのでしょうか。ゆずさんは、クラスメートのことを「クズ」と険しい表情で表現していました。ところが再登校を始め「面白い子」と受け入れられるようになると、ある日、こう言ったそうです。「世の中に良い人って結構いるよね」。そして、その後。あの名言が飛び出てきます。「人と違うって最高!」。

個性をまず家族に認められ、その後はクラスメートにも認められたゆずさん。あの名言を聞き、私の体の中を「最高!」という爽快感が駆け抜けていきました。

(臨床心理士 福田俊介)

不登校で成果をあげるカウンセリング

ここまで、不登校の中学生の事例をご覧いただきました。実際の変化は直線的ではなく、もう少し紆余曲折があります。また個人が特定されないように配慮して書いていますが、ご紹介した変化は、事実に沿ったものです。このように、淀屋橋心理療法センターのカウンセリングは専門家による緻密な分析とアドバイスによって、劇的な効果を上げています。

この記事をご覧になっている親御さんも、このような大きな変化を体験していただければ幸いです。

ライター/公認心理師 益子玄一郎

2024.10.08  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》公認心理師 益子玄一郎 ・臨床心理士 福田俊介

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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