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重症化した過食症は治るのでしょうか
重症化した過食症の現場では、実際どのようなことが起きているのでしょうか?
その壮絶な現場を目の当たりにしている親御さんからは、「子どもの過食症は本当に治るのでしょうか?」という不安の声が多く寄せられます。
確かに重症化した過食症は簡単に治せるものではありません。即効性のある薬や治療法が、今は無いに等しいのが現状でしょう。
しかしそのような場合でも、親御さんが熱心にお子さんに向き合い、治療に取り組んでいただくことによって、治る道筋は確実に作られていきます。治すことが困難とされた重症の過食症が、きれいに治ったというケースはたくさんあります。
実際に、当センターに通われていた重症化した過食症のケースには、莫大な過食費用の末、借金が膨らんでしまい、ご本人が自己破産するしかなかったという、かなり深刻なものもありました。とても難しいケースではありましたが、親御さんが粘り強く向き合ってくださったことにより、ご本人の過食症はきれいに治っています。
2024年11月11日開催させていただいた【淀屋橋心理療法センター 重症の過食症を乗り越えるための親御さん向け治療説明会】では
・重症化した過食症の子どもを治すための、親御さんの向き合い方
・重症化した過食症治療には、なぜカウンセリングが必要なのか
などについて、講演させていただきました。
重症化した過食症の現場~子どもの“死にたい”にどう応えて良いかわからない親御さんたち
神経性過食症(bulimia nervosa: BN)は摂食障害の一つです。「むちゃ食い」(「気晴らし食い」)と呼ばれる過食が特徴です。この過食衝動は自身でコントロールできず、短時間に大量の食べ物を過食します。一方で、肥満恐怖のために過食後の嘔吐、下剤の乱用などの排出行為をしたり、一定期間、節食・不食することで体重をコントロールしようとします。排出行為が全くない場合でも「むちゃ食い」の過食があれば神経性過食症と診断されます。
過食症の主な症状としては、上記のようなものがあげられます。
しかし過食症が重症化すると、鬱の悪化、自殺企図、万引き、莫大な過食費用、家庭崩壊…など、様々な二次的症状も併発し、本人はもちろん、家族をも巻き込み苦しめていく場合があるのです。
今回説明会に参加してくださった親御さん達からは、「子どもが毎日過食しては“死にたい”と言うのがつらい」「睡眠薬を大量に摂取し、お風呂で死のうとした」「過食費用を月30万くらい使う。お金を渡して良いかわからない」などという様々な苦しみの声がありました。
そうなってくると、親御さんはいったいどうすればいいのか、子供のために何ができるのか、右も左もわからなくなってしましますよね。
過食症の治し方その①
~摂食障害の方の“生きづらさ”について~
すでにご経験済みの親御さんも多くおられると思いますが、過食または食事制限、過食嘔吐をしている子どもに対し、過食症の症状そのものに焦点を当てて正論を言うことは、あまり効果がありません。
過食症の根底には、その子自身の「生きづらさ」が深く大きく関係しています。
ですから、「過食をやめさせる・食事制限をやめさせる・過食嘔吐をやめさせる」などという目先の問題点を改善することは大事なことと思いますが、それだけではなく、さらに視野を広げて物事を考えていく必要があるのです。
親御さんは、過食症であるがゆえの子どもの行動や言動にばかり注目してしまいがちです。しかし一歩離れた場所から子どもの全体像を見ると、過食のことだけではなく、その子の抱えた「生きづらさ」に気づくことができるのではないでしょうか。
【生きづらさってどのような事?(一例)】
・人に気を遣いすぎる(特に家族以外の人に対して)
・断れない
・いつまでも気持ちを引きずる
・責任感が強すぎる
・こだわりが強すぎる
生きづらさには様々なものがありますが、摂食障害の方には「自覚のない頑張り屋さん」がたくさんいらっしゃるように筆者は感じます。それ自体は悪いことでもなんでもないのですが、それが体や心を壊すほどの「頑張り屋さん」なのでしたら、それは「生きづらさ」に繋がってしまうのかも知れないですね。
過食症の治し方その②
~子どものために、親はまず何ができる?~
重症化した過食症の子ども 自分で自分を変えるのは難しい
重症化した過食症を根本から治すためには、子どもの“生きづらさ”を変えることが必要不可欠だと考えます。「過食症を治すために生きづらさを変える」というのは一見、とても遠回りだと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしここを変えないことには、過食症の症状が一時的に良くなったとしても、何度も振り出しに戻ってしまう可能性が高いので、そういった意味では一番の近道です。
淀屋橋心理療法センターカウンセラー・臨床心理士の福田俊介はこう話します。
「しかしながら、過食症のお子さん本人は、自分の生きづらさを変える事にはあまり興味がないのです。そんなことよりも、“これ以上食べなくていい方法を教えてほしい”“痩せる方法が知りたい”のです」
過食症の子ども本人は、過食のこと、自身の体型のことで頭がいっぱいです。ですから、自分の“生きづらさ”を自覚し、自らを変えていくのはそう簡単なことではありません。
そこで淀屋橋心理療法センターでは、親子のコミュニケーションを通して、子どもの“生きづらさ”を変えていくことを過食症治療の一つとして、約40年間、過食症のご家族と向き合ってきました。
過食症の治し方その③
~親子のコミュニケーション【3つ】のポイント~
重症化した子どもと、その親のコミュニケーションにおいて、注目すべき大事なポイントは数多くあります。その中でも、今回は説明会でお話した大事なポイントを3つお伝えいたします。
ポイント1 親子のテンポ、ちぐはぐになっていませんか?
親子でコミュニケーションをとる時、お互いのテンポはそろっているでしょうか?
過食症(摂食障害)の子どもがおられるご家庭では、子どもよりも親御さんのテンポが速い場合が多くあるように感じます。ゆっくり自分のペース動く子どもに対し、お母さんはテキパキせかせか…なんてパターンもよく見られます。
親御さんが、子どものテンポに合わせてあげることはとても大切です。
【こんな事例がありました】
普段からテキパキ動く「お母さんが座ってるところを見たことがない」と娘に言われてしまうほどのお母さん。娘のゆっくり・おっとりしたテンポに合わせる事を意識しました。会話の場所やタイミングを考えたり、ゆっくり落ち着いて話すことによって、娘は少しずつ、趣味の話や仕事の愚痴などを話してくれるようになりました。
ポイント2 子どもの「好きなもの」は知ってる?
子どもが好きなもの・興味があることをどのくらい把握しているでしょうか?
過食症の子どもは、人の気持ちや関心を敏感に感じることが出来る方が多いです。表面的に話していても「お母さん、私の話に興味ないでしょ?」と察せられてしまうことがあるかもしれません。
子どもの好きなものや興味があることを積極的に知ることによって、親子の会話が波に乗ることもあります。
【治療説明会でこんなことがありました】
今回の治療説明会の中で、臨床心理士の福田俊介がお母さんに尋ねました。
「お子さんの興味のあることはなんですか?」
するとお母さんはしばらく考えてから「うーん…わかりません」と…。
しかし、お母さんによくよく話を聞いてみると「そういえば最近娘は、大人の塗り絵をはじめました」「娘は料理をしてくれます。近所のスーパーで、どこが安いかどこが新鮮か、詳しく話してくれます」と、少しずつエピソードがでてきました。
このように、“もしかして親御さんが子どもの興味や関心ごとに気付いていないだけ“という場合もあるかもしれません。いま一度、子どもの会話や行動を振り返ってみるのも良いと思います。
ポイント3 子どもとの約束、どのくらい大事にしている?
過食症の子どもは、約束を重んじる方がとても多いのです。何気なくしてしまった約束を破ってしまうと、子どもからの信頼を大きく損なってしまい、親子の関係が崩れてしまう可能性があります。 どんなに小さなことでも、約束したことは必ず守る、守れない約束ははじめからしないことが大切です。
【こんな事例がありました】
「過食したくないから、絶対に菓子パンを買ってこないで」と母に訴えた娘。
「わかったよ」と軽く返事をしてしまった母は、数日後にその約束を破り、菓子パンを買ってきてしまいました。家に菓子パンが置いてあるのを知った娘は、我慢できずに全て食べてしまい…
「なんで菓子パン買ってきたの?!!!約束破ったな!!」
母が約束を破り菓子パンを買ってきたことが原因で、夜中に家を飛び出すほどの大喧嘩をしてしまいました。
今回ご紹介したポイント3つは、ほんの一例ではありますが、親子のコミュニケーションをとる上でとても大事なこととなります。
とても小さなことではありますが、子どもの“生きづらさ”を変えていく第一歩として捉え、実践していただけると幸いです。
重症の過食症治療には、なぜカウンセリングが必要なのか
過食症の子どもをもつ親御さんの中には「本やインターネットで学んだアドバイスをもとに、子どもに対する対応を実践しているのですが、なかなか効果がでなくて…」と悩まれている方が多くおられます。
説明会に参加された親御さんとお話をしていても、過食症についてたくさんのことを勉強されている方が多く、頭の下がる思いでいっぱいです。しかし、一生懸命に子どもと向き合い、過食症について学ばれているにも関わらず「効果がでない」と道に迷われている方がいることはとても残念でなりません。
そこで考えていただきたいのが、カウンセリングの重要性です。
「本当にこのやり方で合ってるの?」「この場合、どうしたら良いの?」
ご自身のやり方・進んでいる方向が正しいか正しくないかを見極めるには、過食症専門のカウンセラーの見極めがとても重要になってきます。
また、過食症を治すための正しい道筋を新たに作っていくのも、カウンセラーの役割です。
「うちの子、全然良くなってません」
お子さんに良い変化が見られないと、親御さんはどうしてもご自身のやり方に不安を感じ、落ち込んでしまうことがありますよね。
しかし、親御さんだけでは気が付けないような小さな変化や、一見マイナスに思えるような奥が深い変化を、カウンセラーは見逃しません。
この変化に気づくことは、親御さんのモチベーションを保つためだけではなく、次の一手を決めるための重要な判断材料となるため、とても大切なことなのです。
「どうして親子のコミュニケーションが、子どもの〝生きづらさ“を変えていくことにつながるの?」
親御さんはそんな疑問を感じ、本当の意味をよく理解できていないまま、とにかくがむしゃらに進めている場合もあるかもしれません。なぜ、その関わり方が大切なのか、どんな意味があるのか、そういったことをしっかり理解したうえで、子どもと関わっていくことも、過食症を治す近道になります。
たかが親子の雑談…なんて思わないで
淀屋橋心理療法センター所長・精神科医師の福田俊一はこう言います。
「たかが“親と子どもとの喋り”しかし、“親と子どもとの喋り”はとても奥が深い」
この、初歩的ともとれる小さな行動が、一体どのように子どもの“生きづらさ”の変化に結びついていくのかを、ぜひみなさんに知っていただけたらと思います。
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