
今回ご紹介するのは、『不登校』と『リストカット』を克服した小春さん(仮名)の事例です。
中学生になってすぐに不登校気味になった小春さん。
お母さんは小春さんの長引く不登校に心配が募りました。
そんなある日、小春さんからリストカットをしたと告げられ、お母さんの悩みは一層深まります。
不安に満ちた状況で、淀屋橋心理療法センターでのカウンセリングが開始されました。
小春さんご本人は来所せず、お母さんとカウンセラーのみでカウンセリングを進めていきました。
それでは、カウンセリング開始から、小春さんがどのように成長し、『不登校』と『リストカット』の克服に至ったか、順を追って見ていきましょう。
カウンセリング治療を成功に導いた臨床心理士のアドバイスもご一緒に、ご紹介していきます。
目次
不登校とリストカットの問題を抱えた中学生の小春さん
小春さんは中学2年生の女の子。
中学1年生の5月頃から学校に行けなくなり、昼夜逆転生活をしています。
家でもほとんどの時間を自室で過ごすようになりました。
お母さんは「夕食ができたから一緒に食べよう」と小春さんをリビングに呼びますが、それには応じず、夜中に1人で食べることが多いようです。
機嫌の波が激しく、嫌なことがあるとすぐに怒り、何日も自室に引きこもってしまう小春さん。
小学生の頃はリーダーシップを発揮して前に出るタイプの子で、学校を休むことはありませんでした。
お母さんはそんな小春さんの変わりように不安を覚えます。
学校に行かないどころか、部屋からも出てこなくなった我が子。
娘と同世代の子どもたちは、毎日さも当たり前のように登校しているのに…。
何が原因なの? 学校へ行けるようになるの?
どこか他の子と違うのでは? どうすれば…
お母さんは、次から次へと湧いてくる疑問や不安を何か解消できればと、スクールカウンセラーに相談したり、発達障害の専門クリニックを受診したりしました。
スクールカウンセラーには、「焦らないで見守ってあげましょう」と言われました。
クリニックで受けた発達障害の検査では、どこにも異常は見られませんでした。
根本的に何も解決されないまま、小春さんの不登校は1年以上続きました。
そんなある日、小春さんが「リストカットをした」とお母さんに自ら傷を見せてきたのです。傷は浅かったようですが、お母さんの不安はますます高まります。
どのように娘と関わっていけば良いのか?
娘はこれからどうなっていくのか?
お母さんは思い悩んで、当センターに来所されました。
カウンセリング開始当初|気難しくて頑固な小春さん
カウンセラーは親御さんからお子さんの性格や様子を聞き、その子に合った関わり方をアドバイスします。
カウンセリング開始当初の小春さんの印象は、”気難しくて頑固な子”でした。
ちょっと何かを指摘されたり、思い通りにいかないことが起こると、すぐ不機嫌になり、バタンと部屋に閉じこもることが頻繁にあります。
例えば、小春さんは、好きなアーティストのグッズをよく「買って買って」とおねだりします。お母さんがおねだりを断ると、不機嫌になり、3日ほど自室にこもりました。
小春さんがスマホを1日中触り続けるので、お母さんが設定を変更し、使用時間に制限をかけたときはもっとひどかったです。激怒してなんと10日間も部屋に閉じこもりました。その間、リストカットをした形跡も見られました。
自分の気持ちを言葉で説明するのが苦手なのでしょう。極端な手段で周囲に不満を示します。
一度機嫌を損ねると元通りになるまで時間がかかる気難しい性格です。
他にも、テレビのチャンネルを譲らなかったり、スーパーに買い物に行くだけなのに「この服じゃないとイヤ」とこだわるほど頑固なようです。
臨床心理士からの解決アドバイス① 初めの苦戦の日々は頑張りどきです
カウンセラーがお伝えしたアドバイスを親御さんが身につける早さは、人それぞれです。”理解できた”と、”実行できた”は違います。
親御さんのお子さんに対する接し方のクセは、そう簡単には抜けないのです。
アドバイスを心に留め、お子さんとの関わり方を意識するも、初めはなかなか上手くいきません。そのうえ、変化が見られないお子さんの様子に不安や焦りを覚える親御さんは多くいらっしゃいます。
苦難の日々になるかもしれませんが、ここは親御さんに頑張っていただきたいところです。
小春さんのお母さんも、当初かなり苦戦されました。
カウンセラーのアドバイスを実践できるようになるまで時間がかかり、不登校やリストカットどころか、小春さんの調子も変わる様子がありません。
それでも根気強く当センターに通ってくださり、複数回のカウンセリングを重ね、徐々に小春さんとの関わり方のコツを掴んでいかれました。
カウンセリング2ヵ月後|自発的な行動が増えた
お母さんが小春さんとの関わり方のコツを掴み始めた頃です。
小春さんに少しずつ変化が現れ始めました。
小春さんの機嫌の良い日が増えると同時に、自発的な行動も増えてきました。
飼っているハムスターのケージを自分から掃除したり、お小遣いをもらうために自分から料理したり、自主性が高まっています。料理を作ったときには「料理って大変だ。いつもありがとう。」とお母さんに感謝の気持ちを伝えました。これにはお母さんもびっくりされたようです。
また、会話の内容にも変化が見られました。
以前は、話題の大半が小春さんの好きなアーティストに関することでした。それが最近は、学校や思い出話まで話すようになりました。
小春さんとお母さんが、色々な話題を共有できる関係になれている証拠です。
しかしまだ、些細なことで不機嫌になり部屋に閉じこもります。リストカットも止まった気配はありませんでした。
カウンセリング3ヵ月後|意欲的になり、ポジティブな言動が増えた
すごく元気な様子の小春さん。
以前はちょっとしたことで不機嫌になり、自室に何日も閉じこもっていましたが、こもるのはなんと1ヵ月に1日、それも次の日にはケロっとして出てくるようになりました。
リストカットをしている様子もありません。
会話の中に、小春さんの前向きな気持ちが現れます。
クッキーを自分で作ったときには、「楽しいね。生きてると何とかなるもんだ。」
ハムスターのお世話をしたときには、「かわいいな~。飼ってよかった。」
と、発言にポジティブな言葉が増えてきたのです。
勉強についても自分から
「英語楽しいな」「英検受けようかな」
「理科勉強してみようかな」「理科の参考書買って」
と言い出し、ちょちょこっと勉強するなど、意欲が出て行動が活性化してきました。
臨床心理士からの解決アドバイス② 好調なときにこそ気を引き締めましょう
お子さんに良い変化が現れ始めると、親御さんは安心してつい気が緩み、カウンセラーのアドバイスを忘れてしまいがちです。
しかし、ここで気を緩めてはいけません。まだまだお子さんの成長過程です。
小春さんのお母さんも、好調な娘の様子に安心し、彼女への接し方がカウンセリング開始当初に戻りつつありました。
カウンセラーは「まだリストカットをしたり、荒れて部屋に閉じこもったりする可能性は大いにあります。気を緩めず小春さんを支えていきましょう。」とお伝えし、再度小春さんとの関わり方についてお話ししました。
カウンセリング4ヵ月|気持ちの切り替えが早くなり、素直になった
小春さんの調子は全体的に良かったようです。
以前はスマホに夢中で、ご飯に呼んでもなかなかリビングに来なかった小春さんですが、一緒にご飯を食べる頻度が増えました。
良い変化がたくさん起こってきています。
しかし、リストカットは簡単には止まりません。
お母さんが部屋の片づけやお小遣いのことで少し注意したからか、大きく機嫌を損ねて自室に閉じこもることがありました。新たにリストカットをした痕跡も見られました。
しばらく好調な日が続いていた中、荒れた小春さんの様子にお母さんは戸惑います。
このまま順調に…とどこかで安心していたさなか、また振り出しに戻った感覚に陥り、
リストカットは止まったんじゃないの?
今までやってきたことは無駄だったの?
と不安にかられました。
ところが、3日後には部屋から出てきて、珍しく小春さんの方からお母さんに「ごめん。」と謝ったのです。そして、その後すぐにお母さんと冗談を言ったり笑い合ったりして、普段どおりに戻りました。
再び元気になるまでに数日もかかっていた以前と比べ、気持ちの切り替えがだいぶ早くなりました。
さらにその後、お母さんに「私のこと好き?」「殺したいと思ったことある?」と聞いたり、友だちと出かける前は「あの子と会話が続くかな?」という不安を口にしたりしました。
カウンセラーは、彼女の性格を考えた場合、これは良い成長だと判断しました。
自分の気持ちを相手に素直に言葉で伝えたり聞いたりできるように進歩しています。
ありのままの自分の気持ちを言葉に表現するのは簡単なことではありません。自分の気持ちを大事にできている良い変化です。
臨床心理士からの解決アドバイス③ 子どもの小さな変化をキャッチしましょう
「引きこもり」や「リストカット」という起こった出来事ばかりに着目して、親御さんが子どもの成長を見落としてしまうことがよくあります。
小春さんのお母さんの場合は、小春さんの成長をキャッチするのが上手でした。今回、自室にこもりリストカットをした小春さんですが、その後の言動で彼女が着実に成長していることがお母さんに伝わりました。
一度くじけかけたお母さんでしたが、彼女の成長を確信し、引き続きカウンセラーと共に、気を緩めることなく小春さんと向き合い続けようとされました。
カウンセリング5ヵ月|交渉する力がついた
バレンタインデー。お母さんは小春さんとお菓子を作る予定でしたが、お仕事で家に帰るのが夜遅くなりそうです。
「ママ今日仕事休んで」とお願いし、断られるとすぐに不機嫌になる小春さんです。
約束していたことなのでなおさら、小春さんに怒られるのを承知でそのことを伝えると、え~と残念がりながらも
「じゃあビーフシチュー作ってくれたら良いよ」
と思いの外、怒らずに交渉できました。予想外の反応にお母さんはびっくり。
また、「お小遣い早めに欲しい」というお願いをお母さんに断られても、少し不機嫌にはなるものの「ご飯作るからお願い。」と交渉します。
以前は、嫌なことがあったら引きこもるという極端な手段で自分の気持ちを表現していた小春さん。しっかり向き合って交渉する力がついてきました。
そしてこのあたりから、学校に登校する日も徐々に増えました。
家で宿題や古文の暗唱をするなど、学習意欲の向上も見られます。
同じアーティストが好きなお友だちも増えて好調です。
そんな小春さんの成長に乗じて、お母さんの心にも余裕が生まれてきたようです。
カウンセリング6ヵ月後|学校に好印象をもつようになった
週全日登校ができ、学校からご機嫌な様子で帰ってくる小春さん。
「楽しかった!」「みんな私のこと嫌いじゃないんや。安心した。」
「学校に行くようになって色んな子と話しができるようになった。」
と学校に好印象を抱いています。
機嫌が悪くなるとまだ部屋にはこもりますが、もう2〜3時間で出てきます。
2〜3日、長くて10日もこもっていた以前と比較すると、その時間ははるかに短くなり、彼女の成長を感じられます。
来月から小春さんは中学3年生になります。
どのような新学期を迎えるのでしょうか?
カウンセリング 7ヵ月後|不満を言えるようになった
さあ、小春さんは3年生に進級し、新学期が始まりました。
なんと、新学期から1日も休むことなく登校できています!
中学3年生、順調なスタートを切りました。
学校に行くようになって、友だちが増え、家での会話も膨らみます。
楽しいことがある一方、どうしても嫌なことも起こってしまいます。
少し意地悪な同級生がいて、小春さんと一緒に下校していた友だちを、その子が奪っていってしまいました。小春さんは下校の途中で1人にされてしまったのです。
そのことを小春さんは家に帰ってすぐ「ちょっと聞いてー!」とお母さんに愚痴をこぼしました。
以前は、学校や友だちの批判は絶対にしなかった小春さんが、お母さんに同級生の不満を言えるようになったのです。不満も立派な自分の気持ちです。特に彼女のような持ち味の人にとって、これは、本音を伝えられた良い事象でした。
自分の気持ちを上手に伝えられるようになった彼女のさらなる成長に期待が高まります。
臨床心理士からの解決アドバイス④ 不満・批判は成長の証拠です
ある程度自分の気持ちを素直に表現できるようになってくると、今までは言わなかった友だちや兄弟の不満を言うようになります。親御さんからすると、他者の批判を言うようになるのは、少し心配な変化かもしれません。
しかし、これまで嫌なことがあっても相談せずに、自分の中にモヤモヤを溜め込んでいた小春さんにとって、自分の気持ちをお母さんに言葉で伝えられた事実は、紛れもない成長です。
小春さんのお母さんも彼女の批判ぶりに初めは躊躇いましたが、彼女の治療が良い傾向に進んでいる証拠だとお伝えし、その際の接し方をアドバイスしました。
カウンセリング8ヵ月後|「もう謝らない!」自分の気持ちを大切にできた
新学期から1ヵ月以上、小春さんは毎日学校に行っています。
なんと、小春さんに大きな試練が待ち受けていました。
雪さん(仮名)という少し意地悪な女の子がクラスにいて、小春さんに対して嫌がらせをします。小春さんが話しかけても無視したり、聞こえるように嫌味を言ったりするのです。
ついには「小春さんが無視してきます」と先生に嘘まで言われました。もちろん小春さんは無視していないですし、雪さんの非常な態度と理不尽な発言に困惑していました。
先生に嘘を言われてしまった小春さんは、先生から
「雪さんが無視されてるって言ってるぞ」「仲良くしなさい」
と注意されました。
不登校だった小春さんにのしかかった試練。しかし小春さんは1人ではありません。
家に帰って「お母さん聞いて~!」「今日も腹立つことあった!」と自分の怒りを表しました。批判や不満を言うことに慣れてきた様子です。
嫌なことがあって学校に行かなくなってしまうのではと心配したお母さんでしたが、この翌日に1日休んだ後はまた問題なく毎日学校に行けています。
小春さんに責任感が出てきたのでしょう。彼女は強くなりました。
雪さんとの問題は、何回かの話し合いを経て、先生に「お互い謝って仲直りしなさい。」と言われました。
けれども小春さんはその場ですぐに謝らず、「今すぐ仲直りはできないけど、もう少し時間をかけて何とかしようと思います。」と自分の気持ちをしっかり伝えました。
小春さんはとても強くなりました。この試練を、リストカットもせず、不機嫌になって自室に閉じこもることもせず、自分の力で乗り越えました。
このことを小春さんはお母さんに次のように伝えています。
「前に理不尽だと思いながら謝ったことがあったの。でも今回は、もう私謝らない。」
以前は自分は悪くないけれど空気を読んで謝っていた小春さんが、しっかりと自分の我を通せるように成長しました。批判を言うことにも慣れ、自分の人生を流されずに生きる力がつきました。
不登校とリストカットを克服し、8ヵ月のカウンセリングが終結
ここまで、不登校とリストカットの問題を抱えた中学生の女の子の事例をご覧いただきました。
およそ8ヵ月のカウンセリングを経て、小春さんのリストカットが止まり、不登校も解消されました。
この間、記事に取り上げなかった小さな変化もたくさんありました。
少しずつ小春さんのペースで彼女は成長していき、カウンセリング開始当初は苦手だった自分の気持ちを表現することが、上手くできるようになりました。
『不登校』『リストカット』といった問題が克服できたのは、紛れもなく彼女の内面の成長があってのことです。
小春さんが様々なことに意欲的になり、自主性を養うことができたのも、根気強く当センターに来所してくださったお母さんとカウンセラーのアドバイスどおりに小春さんと向き合ってくださったご家族の努力の賜物です。
カウンセリングは終結となりましたが、一段とたくましくなった小春さんのさらなる成長とご活躍を祈り、応援しています。
*この記事は、当センターにご相談に来られたケースを基に書いておりますが、個人が特定されないように配慮しております。