お父さん・お母さん・お姉さんとの四人暮らし
【カウンセリング開始時20歳(大学3年生)】
明るい性格で、面白い事が好き。
中高スポーツ系の部活に励み、キャプテンを務めていました。
その一方で、自分の気持ちを言葉にすることが苦手で、
怒りが爆発した時に手が出てしまう事もありました。
友人などの人間関係で苦労することも多かったそう。
カウンセリング当初は、頻繁にリストカットをしていました。
夜寝る時間になると、友里さんの部屋からは
カッターのカチカチする音が何度も聞こえてきました。
そのたびに、お母さんは心を痛めていたそうです。
このケースは、ご本人にアドバイスするのではなく、
お母さんにアドバイスをすることで解決したケースです。
淀屋橋心理療法センターライター
主に摂食障害や不登校、ほのぼの日記などの記事を執筆しております。
目次
今回、東京に住んでおられる高田さんのお母さんに、リモートでの取材をさせていただきました。
インタビュアー湯浅
インタビューに応じてくださった高田さんのお母さん(以下【お母さん】)
敬称は略させていただきます
―― 友里さんのリストカットなど様々な事を乗り越え、治療が終わりに近づいてきました。今どのようなお気持ちですか?
【お母さん】 嵐が過ぎ去ったかな~・・・みたいな気持ち
本当に良かった、ほっとしたような気持ち、ですかね
―― 今は不安はないですか?
【お母さん】 ん~そうですね・・・
こういうのって終わって振り返ってからしかわからない事なので、もしかしてまた何かあるかも…?とか、完全に良くなっているのかもわからないし完全にホッとして良いのかな…?って思いもあるのですが
でもまあ以前に比べたら、彼女(友里さん)の精神の体力、精神の底力が付いてきた感じを実感するので、そういう意味では私も、何かがあってもあまりオタオタしないんじゃないかなっていう気持ちがあります
―― 友里さんに対するお母さんの対応の仕方は、最初の頃と今、変わりましたか?
【お母さん】 昔は何もわからなかったから…
カウンセリングを受けている間に先生に色々教わった事で、どういう風に対応すれば良いのかとか、そういう事がわかってきました
言われたことを実践しながら、“これは何のためにやっているのか?”とか、色々な疑問があったわけなのですが、その疑問をその都度先生に聞くことによって“あ~そういうことか”と腑に落ちる
そういう事がこの間にあって、やっぱり自分も学んできたと思うので、彼女に何かあっても昔ほどオタオタはしなくなったかな~みたいな感じです
―― お母さん自身が、成長したり、変わったな、と思われているということですか?
【お母さん】 そうですね
変わった…というか、“わかるようになった”というのかな
なんであの時あの子があんな感じだったのかな、とか
彼女自身の表現方法も、すごい変わってきているから
それにつられて、私も変わってきたなと思います
―― お母さんが友里さんのリストカットを知った当初、その頃って何が辛かったですか?
【お母さん】 リストカットしていること自体が一番辛かったんですけど、そういう状況になるまでに、彼女は色々な人間関係を続々と失っていきました
自分の恋愛がうまくいかなかった事、サークルを辞めちゃった事、それから同性の友人関係も上手くいかなくなってしまい、そこの関係も切れちゃった
そういう経緯があって、(リストカットの)行為が始まっているのを見つけちゃったんですけど、やっぱりカットしているのが何よりも辛くて
今、切ってるんだ・・と思ったら自分も平常心でいられない
平常心でいられないし、寝られないし・・みたいな感じになって
振り返って思うに、親ってやっぱり、子どもが傷つかないように…傷つかないよ うに…って思って育てているじゃないですか
“傷ついてほしくない”というのが前提にあって、親は行動を先回りして育てる
それなのに、“本人が自分で傷つけている”ということが、本っっ当に辛かったです
基本親は子どもを守りたいじゃないですか
色んな障害や辛い事から
無駄に傷ついてほしくないっていうか
無駄に傷ついてほしくないって思って育てているのに、自分で自分を傷つけるんだ…という事が、私はすごく辛かったです
―― お母さんは、自分自身を責めたりもしましたか?
【お母さん】 そうですね
“自分のあれがだめだったのかな…”
とかは、何か問題があるたびに思いますよね
育て方がだめだったのかな?とか
干渉しすぎていたのかな?とか
自分ではそんなに干渉をしているつもりはなく、干渉しないように意識していたつもりなんですけど、でも結果的にだめだったのかな…?などと考えました
―― 今はどうでしょうか?
そういう思いは少しづつ変化してきましたか?
【お母さん】 どうだろう?
いつもいつも、子育てって揺れながらやってるから…
何が正しかったかとか、今は正しいのかとか、ずっとわからないままだとは思うのですが、お互いを責めてもしょうがないのかなって気持ちも半分くらいあります
責めるって、過去のことを思い出して、済んでしまったことを反省するってことだと思うんです
そういうのってなんというか…
あまり過去を反省する事に注力しすぎても良くないと思うんですよね
子育てって、傷とか辛い事とか苦しい事がよく目に見えてしまうわけで、“この親子の組み合わせで良かった”と思える部分って、あまり見えないじゃないですか
今回カウンセリングを受けた事で、思いが変化した所を1つ挙げるとしたら、やっぱりこの時間が…彼女がリストカットをしちゃったり、私があたふたしたり、そしてこのカウンセリングを受けたりしたこの一連の出来事は、私たちにとって必要なことだったんだと思うようにしています
そうだと思っています
―― 淀屋橋心理療法センターでカウンセリングを始める時「会話を通してお子さんを変えていく」と説明されるじゃないですか
それって最初は「え…どうなの?」って疑問に思いませんでいたか?
【お母さん】 最初、友里のリストカットを知った頃、「うわ~!どうしたらいいの?!」となって、(淀のHPに)先生にメールを出したんですよね
“カウンセリングを受けたいです”っていうメールを出したら、かいつまんで“うちではこういう事をします”“記録をしてもらって、どういう風にしていったらいいか、コツをお教えします”という内容のメールがきました
で、最初の面接で、性格のチェックとかをやったときに
“なんてうさんくさいんだ!!”って思ったのですけど(笑)
なんてうさんくさいんだ!!と思ったのと同時に、なんかものすごく興味があるな…とも思ったんですよね(笑)
なぜかものすごく興味がある!どういうことなんだろう!?という気持ちも、同じくらいの分量があって
カウンセリング料金も、安くないじゃないですか
ん~…安くないけど…でも、すごく興味があるなぁって
これは例えば、失敗したら結果的に100万円を馬券で擦ったということにしてやってみようって、ギャンブルだと思ってやったんですよ(笑)
―― ギャンブル!(笑)
【お母さん】 そう(笑)
「先生の言ってる事って、どういうことなんだろうな・・・」「これはなんのためにやるんだろう…?」って、やっぱり少し疑問も感じながら始めました
でもやっていくうちに、なんとなくちょっとは、仕組みというのかな、意図というのかな、そういう事が自分的には少しわかったつもりでいて
カウンセリングで記録を見せた時に
“お母さん、ちょっとここの質問はいらないかな”とか言われて、最初は・・・最初はですよ?
“でも、やっぱり会話って質問しないと続かないじゃん?”って思って
話を聞いてくれていたお友達にも
“え~でもコミュニケーションってお互いのやりとりなんじゃないの?会話ってそうやって転がっていくんじゃないの?”
って言われて
要するに会話って、相手が言った事に対して興味を示して質問するわけですよね?
だからそういうところを“いらない”と言われると「どういうことなんだろう…」って不思議に思ったんですけど
でもまあ、ギャンブルだから(笑)
言われたとおりにやってみようと思って、とりあえずやってみる
―― 最初は、本当に手探りだったのですね
【お母さん】 リストカットを治すって、自分がまったく知らないことなんで
“親が優しくすれば治るのか”といったら・・・そうじゃないから
私的には、優しい親のつもりだったし、本人が何かを決めるときも、親が先に決めるということもしてこなかった
そういう事をまあまあ考えて子育てしてきたと思ってたから、それでだめってことは、本当に崖っぷちで、どうしたらよいかわからないわけで
本を読んでもわからない、YouTubeを見てもわからない
そしたらやっぱり、ギャンブルっぽいけど…興味のあるところでカウンセリングを受けてみようって賭けてみた
そう、賭けてみたって感じです
―― やはり高田さんのように、最初「親子の会話で治せるの…?」と不信に思う方や、途中でカウンセリングを断念してしまう方もいらっしゃるのですが、どうやったら、こう…伝わるというか、乗り越えて続けていけるでしょうか
慣れない事をするので、もちろん最初はしんどい事もあると思うのですが、乗り越えていければ治療が成功につながる可能性が高いので、勿体ないなぁと思う事がたくさんあります
【お母さん】 そうですね…
やっぱり、お母さんも素直になったほうがいいっていうか、
お母さんだけが原因じゃないかもしれないけれど、やっぱり今までのやり方や、今までの家族のスタイルでそういう現象が起きちゃったわけだから、なにかしらスタイルを変えないことには、治っていかないと思うんですよね
でも、何かしらスタイルを変えたいけど、どうやって変えたらいいか分からないっていうのが親じゃないですか
―― そうですね、ずっとそれでやってきたわけだし
【お母さん】 スタイルの変え方がわからない
だからそこは専門家に教えてもらうっていうのが良いんじゃないかな
やってみて、これは価値のあることだよねって思いました
そして、今までのやり方が否定されるわけではなく
“こういう風にやってみましょうね”“やってみたらこうなりましたよね”
という感じ
“3、4か月頑張れば、何か変わってくると思います”と言われていたから、じゃあとりあえず3・4か月は何も考えずに言われたことをやってみようと思って、やりました
―― お母さんにとって、リストカットってどんなものだと感じますか?
【お母さん】 ん~~~
最初は、なんで!?って気持ち
最初は嫌悪感があったんですよ
―― 嫌悪感?
【お母さん】 そう、なんか、“安易”なんじゃないかって思ったんですよ
うまくいかないことがあった時に、自分で言語化できたり、“なんでできないんだろう?”って、なんでもっとしっかり頭で考えないんだろう・・っていう嫌悪感が半分くらいあったんですよね
なんていうんだろう、衝撃とともに、すごい嫌悪感
リストカットって、安易に切ってると思っちゃうんですよね
辛かったら切ればいいって
なんでもっとしっかり考えないの?何に怒っていて、何が嫌で、何に傷ついてるんだろうとか、もっとしっかり言語化すればいいのに
もっと考えろよ…って最初は思ってたんだけど
でも、色々な本を読んだり、先生のHPを読んだら、リストカットってそういうものでもないんだなって思いました
頭が真っ白になって切っちゃう
そういうのって、依存行為なんだよなって
本人もそれをわかっていたみたいで
“しんどいことがあると、カットしなきゃ…!って思うんだよ”
って言ったんですよ
“しなきゃ”って…
あ~やっぱりこれって、依存行為なんだなあって思いました
依存行為って、軽いのから重いのから、いろんな依存行為があるじゃないですか
たばこだってそうだし
お酒だってそうだし
そう意味でいうと、依存行為ってそんなに簡単には治らなくないですか?
リストカットという依存行為も、そんな表面的なものではないと思うから、だからやっぱり治るのも時間がかかると思いますね
―― 当初、リストカットに“嫌悪感”を感じたお母さんですが、現在はリストカットという行為にどのような事を感じますか?
【お母さん】 そうですね、最初は嫌悪感があったんだけど、言語化できないから切っているわけなんですよ
もっとよく考えて言語化すればいいのに…って思っても、それが出来ないから切っているわけなんですよ
だから、途中からそこに嫌悪感を持ってもしょうがないなって思いました
そうだよな~この子は昔からあまり言語化出来てなかったよな~
だから、よくお友達とのトラブルもあったよな~って…
小学5年生の時も、友達とトラブったんです
全員にそっぽ向かれる
学校ではイジメという認定にはならなかったし、私も、本人が悪いと思っていました
でもやっぱり、それはどこか彼女に言葉足らずのところがあったり
嫌なことがあると、どこかプイって行っちゃうところがあったり
それでみんなに嫌われちゃう、みたいなところがあったんですね
だからやっぱり、彼女は言語化する事や、最後まで伝えるが事が出来ないまま、大人になってるよなって事を今回、すごい感じて…
今だから理解できるんですけど、先生がよく私に言ってくれた
“彼女の自己表現力を鍛えてください”
って言葉
気持ちを言語化させる訓練をするために親が聞き方を工夫する
これは会話じゃなくって、親がコーチになるっていうか、訓練させてるんだよなって思ったら、質問をしたい気持ちを抑えられるっていうか、楽しく話すのではなくて、“訓練”だと思って彼女と会話していました
―― カウンセリングの経過の様子を追っていくと、どんどん友里さんが変わっていく様子を私も感じました。
お母さんが“変化したな”と実感している事はなんでしょうか?
【お母さん】 自分で思っていることが言えなかったせいか、昔はすっごくイライラすることが多かったんですよね
そういうのが最近は減ってきましたかね
言葉で言えるようになってきたから、そういうのは減ったかなと思います
前はいつも、彼女の機嫌が悪くならないように
“これ言ったら機嫌が悪くなるかな…”
っておそるおそる話していたんだけど、最近はこっちがびくびくする感じがないです
“は~~安全~”って(笑)
やっぱりこっちも楽になってきました
この子はだいぶ不機嫌をぶつけることがなくなってきたので、こっちも安心して話せるなって
―― 今、お母さんは安心して友里さんと関われているのですね
【お母さん】 そうですね、凪いでいる感じ
―― そこが変化すると、二人の間の雰囲気も変わりますよね
【お母さん】 思い過ごしかもしれないけど、やっぱり顔の表情とかも柔らかくなってきたかなって思います
昔は嫌なことがあるとすぐに、“こ…殺す?”みたいな視線で睨まれたけど(笑)
そういうのを、今は感じないかな
お互い学んでるんですかね
―― 優しくなったなって、感じますか?
【お母さん】 優しいかっていうと、どうかな…?
まあ、私に対してはずっと優しいですよ
昔、先生に“カウンセリングがうまくいって卒業するころには、人の気持ちがわかるようになりますかね?”って聞いたら
“いや、人の気持ちがわかるようになるかはわからないけど、分別はつくようになる”
って言われたので(笑)
そーかそーか(笑)
性格までは変わらないんだって思って(笑)
だからまあ、優しくなったというか…相手のことを「相手はこうだろうな」とか、そういうのをわかってくれるような感じになったとは思いますね
―― それって実はとても大きなことですよね
【お母さん】 そうですね、
ちょっとはこっちのことをわかってくれてるようになったなって思います
―― カウンセリングを続ける中で、お母さんの息抜き方法ってありましたか
なかなか息抜きが出来ていないようなお母さんもいらっしゃると思うのですが
【お母さん】 そうですね
普段と変わらないルーティーンを繰り返すってことでしたかね
お茶を飲みに行ったりとか、そんな特別なことはしていなくて…
私なんかは、本当に普通に家事をやって、ジムとか通って、たまに映画を観に見行ったりとか、そんな感じかな
―― “普段と変わらない”というのは、“子どもの事だけにならず、本当にいつもどおりに”みたいな意味ですか?
【お母さん】 うん
そのこと(友里さんの問題)ばっかり考えていてもしんどいと思うので、
自分にも気持ちが良いインプットというか、そういうドラマや映画を見たりしました
それとあと、お友達と喋る!
この話(友里さんの事)ができる友達が一人いたのですが、その人と“こうだったんだ”と話すのが、私にとったら息抜きだったかなって思います
みなさんがそういう風に話せる相手がいるかどうかはわからないけど、一人でもいると、話したり聞いてもらうことで、結構楽になるかなって
―― 子どものリストカットに苦しんでいる親御さん達に、何か声をかけるとしたら
【お母さん】 そうですね、声を掛けるとしたら…
やっぱり、“自分の育て方がダメだったんだな”とか、色々自分を責めると思うんですけど、それだけじゃないと思うんですよね
親と子の相性ってあるじゃないですか
例えば兄弟がいて、他の子は平気なのに、その子だけ問題がでるとか
だからこの子は、育て方が悪いのではなくて、この子と私の相性が良くないだけなのかもって、思ってほしい
そしてその相性は、後からいくらでも調整することができます
今のこの世の中、SNSが発達していたり、私たち親の世代だとありえないようなことが起こっている時代の中、そういう時代の中でリストカットも増えていると感じる
そういうのも原因の一つだと思ったのですよね
だから自分をそんなに責める必要はなくて
責めなくてもいいって言っても、親御さんはやっぱり責めてしまうと思うんですけど…
でも責めたところで始まらないので、必要以上に責めなくてもいいと思います
時間はかかるかもしれませんが、お母さんが強い気持ちを持っていれば、必ず良くなる
ぐらぐらしていた基盤のようなものがしっかりしてくる
自分を責めることから始めないで、親も子も幸せになる未来をイメージして頑張って欲しいです
高田さんは、東京に住んでおられる方なので、今回のインタビューはもちろん、普段のカウンセリングも、オンラインでされていました
実際に対面してお話できないぶん、うまくインタビューを進めることができるか少し不安だったのですが、話してみると全くそんな心配いらないくらい、とても気さくで、よく笑いかけてくださる聡明で優しいお母さんでした
そしてなにより、娘さんへの深い愛情を感じられました
今回のインタビューでは、同じようにリストカットに苦しんでいる親御さんに向けて、たくさんの情報を提供させていただきたいと思っていたのですが、高田さんはその私の思いを汲んでくださり、本当にたくさんの経験や思いを語ってくださいました
「お母さんが、ご自身のことを責めなくていい」という言葉は、実際に経験し、克服されたからこそ、感じられた事なのだと思います 経験されたお母さんの、とても重みのある言葉だと感じます
高田さん、インタビューを引き受けて下さりまして、本当にどうもありがとうございました
淀屋橋心理療法センター 湯浅愛美
淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一
医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
日本の実践的家族療法の草分け的存在。
初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
著書多数。