発達障害(ASD ADHD LD)とは?
主な原因や症状、治し方を解説

発達障害の治療方法

発達障害とは?

発達障害とは、特定の物事に対して極端に不得意な部分が目立ったり、集団生活が苦手だったり、落ち着いていられないなどの特徴を持つ精神障害の総称です。言葉の発達が遅かったり、対人関係を上手に築くことが出来なかったりなどの特徴もあります。原因について、まだはっきりはわかりませんが、脳の使い方が多数派と違うのではないかと言われています。症状の現れ方が人によって異なる場合も少なくなく、社会生活を営む上で壁にぶつかってしまう人も多い疾患です。この記事では、発達障害について詳しく解説します。

発達障害の種類とは

まず、発達障害にはどのような種類があるのかをお伝えしていきましょう。発達障害には、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠陥多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」などが代表的な疾患として挙げられます。多くが幼少期から学童期に症状が現れ始め、まわりに馴染めないことから発覚するケースが多いです。

しかし、症状があまり強く出ない場合、見過ごされたまま「何となく変わった子」という認識で成人してしまうケースもあり、そのような際は大人になってから初めて診断されることも多いと言われています。

1.自閉症スペクトラム障害(ASD)の症状

自閉症スペクトラム障害は、もともと「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などを統合した診断名です。そのため、自閉症スペクトラム障害の症状としては、下記のようなものが代表的になります。

・社会的なコミュニケーションや対人関係を築くことが難しい
・限定された行動や興味、反復行動が目立つ
・光や音など感覚に関する過敏性を持つ
・逆に光や音などの感覚に関する鈍感性が生じる場合もある

自閉症スペクトラム障害の人は、感覚が非常に敏感なことが多く、決まった洋服しか着ることができなかったり、刺激を避けるように同じ活動範囲を好んだりするなどの特徴も目立ちます。また、人とどう拘ったら良いかわからない為に対人関係で困難を感じ、社会から孤立してしまう場合も少なくありません。

2.注意欠陥多動性障害(ADHD)の症状

注意欠陥多動性障害(ADHD)の症状としては、下記のようなものが代表的です。

・集中力が続かない
・同じ場所にじっとしていられない(多動性)
・思いつくと後先考えずに行動してしまう(衝動性)
・忘れ物が目立つ
・片付けや整理整頓が苦手
・約束や課題の締め切りなどを忘れてしまう

しかし、これらの症状が注意欠陥多動性障害の人全てに当てはまるわけではなく、人によって多動性のみが表面化していたり、どちらも混同して現れていたりします。注意欠陥多動性障害では、我慢をすることが難しく感情をコントロールするのが困難です。そのため、その時の衝動性で行動に移してしまう場合が多いので、対人トラブルが多い種類とも言えます。

3.学習障害(LD)の症状

学習障害の症状としては、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」などの能力に障害が生じます。そのため、学校などで授業を受ける際にこれらが出来ないことで、症状が表面化する場合が多いです。

また、学習障害の人が一番困る問題として、「読む」「書く」など学習関係におけること以外はそれなりに出来るため、その困難さをなかなか周囲の人に理解してもらえず苦しむケースが存在します。「怠けているのではないか?」「さぼっている」などと、本質とかけ離れた評価を受けてしまう場合もあり、発達障害の中でも発見が遅れてしまうことが多いとも言われています。

発達障害の原因について

発達障害の詳しい発症原因は、現在のところはっきりとは解明されていません。しかし、生まれつき脳の一定の機能が定型発達の人と異なる点が、発達障害の一因とも言われています。

発達障害が疑われる時の相談先

発達障害は、発見が早ければ早いほど適切な対処をすることが出来ます。そのため、発達障害が疑われる時は早い段階で、専門機関に相談することが重要です。相談先として代表的なのは、「地域の子育て支援センター」「家庭児童相談室」「児童相談所」「保健センター」「発達障害支援センター」「療育センター」などがあります。

このように地域に密着した支援機関があるので、まずはそのような機関に相談してみるのをおすすめします。もし、乳児期からかかりつけの医療機関がある場合は、定期健診などの時に相談してみるのも良いでしょう。

発達障害の検査方法や診断

次に、発達障害を診断するためには、どのような検査や診断が行われるかをご紹介します。発達障害の検査には、主に4つのものが行われます。

・心理検査や知能発達検査

まず1つ目は、心理検査や知能発達検査です。発達障害は他の疾患とは異なり、精神的な発達の遅れや知能などに偏りが現れるのが特徴です。そのため、発達障害かを判別するためには臨床心理士などによって、心理検査や知能発達検査が行われます。

通常は、臨床心理士や医師と対面しながら質問に答えていくという形で実施されます。しかし、障害の現れ方によっては「書く」「読む」などが難しいケースもあることから、個人に合わせた検査方法で進めます。

・脳波検査

2つ目は、脳波検査です。脳波検査では主に発達障害と併発しやすい「てんかん」があるかないかを調べるために行われます。脳の電気的な活動を記録することで、発達障害とてんかんの併発の有無を確認するのです。

・画像検査

3つ目は、画像検査です。画像検査では、発達障害と同じような症状が出やすい脳腫瘍などの疾患が隠れていないかを確認します。発達障害が疑われる場合は、頭部のCTやMRIなどを使用して、脳腫瘍の可能性を排除することが重要なのです。

・血液検査

そして4つ目は、血液検査です。発達障害の症状の中で「甲状腺機能低下症」などのホルモン分泌異常が原因で引き起こされるものもあることから、それらの病気と区別するために血液検査が行われます。

発達障害の治療方法

発達障害の治療方法

発達障害が発症すると、根本的に完治できる方法は現在のところ確立されていません。そのため、発達障害の治療としては主に「療育(発達支援)」と「薬物療法」が中心となります。

・療育(発達支援)

療育(発達支援)は、個々の発達の状態や障害が現れている部分に応じて、将来の自立と社会参加を目指して必要な支援を行うことを指します。発達のスピードが個人でそれぞれ異なるので、現在出来ていることは可能な限り伸ばし、まだ表れていない能力を引き出すことも行われます。また、発達障害の人の特性を早期に把握し、特性に合わせたコミュニケーションを支援することで、社会参加がしやすくなるとも言われているのです。

さらに、社会との関りだけではなく、親子関係をより良いものにしていく支援も同時に行われます。具体的な支援方法としては、下記のようなものが挙げられます。

・言葉やコミュニケーションに焦点を当てたアプローチ
・体の使い方に焦点を当てたアプローチ
・かんしゃくなどの行動に焦点を当てたアプローチ
・親の対応に焦点を当てたアプローチ(ペアレントトレーニング)

・薬物療法

発達障害は、その種類によって症状の現れ方が異なります。そのため、薬による行動のコントロールが必要になるケースもあるのです。多くは、薬の成分が脳内の神経伝達物質のアンバランスさを改善し、調整することで症状をコントロールするというものになります。

薬物療法は原則として、6歳以上からの処方となっています。例えば、注意欠陥多動性障害(ADHD)では、脳の働きを活性化させることで症状をコントロールする「精神刺激薬」が用いられたり、不眠症などが併発しているような場合は「睡眠薬」、症状によってうつ症状が現れているような場合は「抗うつ薬」などが処方されたりします。

しかし、薬物療法は根本的な治療としてではなく、あくまで症状をある程度コントロールするために用いられるということを覚えておきましょう。

発達障害の治療で療育(発達支援)が受けられる場所

発達障害の治療の中心となる療育(発達支援)を受けられる施設としては、児童福祉法に基づく児童発達支援センターや児童発達支援事業所などが挙げられます。ここでは、集団の支援や個別の支援が行われており、0~6歳の幼児が対象となっています。

小学生以上の場合は、放課後デイサービスなどが対象となっており、どのような支援が受けられるのか見学も可能な施設が多いです。地域によっては、早期に必要な支援が受けられるような体制が整っている所もあるので、未診断のいわゆる「グレーゾーン」の段階から、このような施設を利用するのも良いでしょう。

発達障害の人が受けられる公的な支援

次に、発達障害の人が受けることが可能な公的な支援をご紹介します。

・障害者手帳

まず1つ目は、障害者手帳です。障害者手帳は、障害の種類や程度に応じて様々な福祉サービスを受けることが出来るもので、取得すると社会参加がよりスムーズに行えるようになります。

発達障害の場合は、精神障害者保健福祉手帳の対象となっており、知的障害を併存している場合は療育手帳も対象です。障害の程度や障害者手帳の取得の可否判定に関しては、医師の診断書と審査会を経て総合的に判断し、決定されます。

・障害福祉サービス

2つ目は、障害福祉サービスです。障害福祉サービスは、地域で療育や支援が受けられる障害者通所支援や児童発達支援、放課後等デイサービスや、医療型児童発達支援や保育所等訪問支援などの利用を指します。このほかにも、発達障害の人の自立を支援するための自立支援給付や障害者入所支援などの制度を利用することが可能です。

・合理的配慮

そして3つ目は、合理的配慮です。合理的配慮とは、発達障害をはじめ様々な障害をもっている人の人権が保障され、教育や就業・その他の社会生活において平等に参加できるように、困りごとに合わせて行われる配慮のことを指します。

これは、「障害者差別解消法」によって、行政や学校・企業などに対して合理的配慮を可能な限り提供することが求められるようになっているものでもあります。発達障害の場合は、種類によって「読む」「書く」などが困難なケースもあるため、そのような際は音声読み上げ教科書やタブレットなどを使用できるようにしている例もあります。

発達障害の予防方法

発達障害は、生まれつきの脳の障害が発症原因の一因であるということ以外、原因が明確に分かっていないため、発症を未然に予防するのは現在のところ難しいと言えます。しかし、発達障害は早期に症状を把握し必要な支援を行うことで、本人が抱える「生きづらさ」を最小限に食い止めるのは可能です。

発達障害による生きづらさを最小限に抑える方法としては、気になる症状がある時は出来るだけ早く医療機関や専門機関を訪れて、診断をしてもらうことが重要になるでしょう。

特に、幼少期に症状がほとんど表面化しなかった場合では、成人になってから社会に馴染めずに、対人関係などでトラブルを起こしやすいなどの症状が一気に表面化する場合もあります。このようなケースでは診断されないまま悩み続け、二次障害を併発してしまう可能性もあるので、専門機関への相談は早めに行うことが大切です。

発達障害の予防方法

まとめ

発達障害は、種類によって現れる症状が様々で、ひとりひとりの年齢によっても異なる状況が生じます。そのため、発見が早ければ早いほど適切な支援と繋がることが可能で、その人らしい特性を活かしながら生活することが出来ると言えます。

逆に、生きづらさを抱えながら必要な支援を得られず、特性を活かせないまま生活している人も多いのが現状で、発達障害を最初に発見するきっかけとなり得る窓口の情報の共有も、今後の課題だと言えるでしょう。

発達障害について、今後研究を要する点をあげておきたいと思います。

発達障害の概念は、子どもを理解するのにとても有効な考え方ではありますが、まだまだ発展途上の概念です。

軽度の発達障害と診断された場合、その子は一生発達障害のままなのか?

当センターの経験では、発達障害軽度あるいはグレーゾーンと診断された子をうまく伸ばすことができれば、発達障害圏と診断された特徴が消える場合がよく見られています。

ですので、発達障害の診断がつくことだけで、親や先生など周りの大人たちが、子どもの全てがわかってしまったような錯覚を持ってしまい、生身の人間を観察し、理解する〈観察力〉や〈判断力〉が弱まってしまうことは、とても危険なことだと考えます。

発達障害という診断がついたとしても、その子をどう伸ばすことができるのか、どこまで伸びることができるのか、その可能性を広げていくための更なる研究が必要になってくるでしょう。

くどいようですが、診断名を見ただけで、周りの大人たちがその子どもの〈個性〉や〈可能性〉をなくしてはいけないのです。

2022.11.28  

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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