解離性障害とは
私たちは本来、思考や記憶・周囲の環境・行動・身体的なイメージなどを1つの繋がりとして実感しています。しかし、解離性障害はこれらの物事が分断されて経験するようになる障害のことを言います。解離性障害になると、ある出来事が頭の中からすべて抜け落ちてしまうことで思い出せなくなったり、予期せぬ場所へ記憶がないまま赴いたりする場合があります。そのため、解離性障害は日常生活に大きな支障をきたす疾患なのです。
解離性障害の症状
解離性障害は、いくつかのタイプに分けることができ、それぞれのタイプによって現れる症状が異なります。そのため、解離性障害だと認識するためには、まずタイプ別の症状をしっかりと理解することが重要になります。解離性障害の主なタイプは、以下のとおりです。
1. 解離性健忘:
強いストレスなどによって、一時的に特定の記憶を失くしてしまう症状
2. 解離性同一障害:
多重人格と呼ばれる症状で、明確に区別できる複数の人格が同一人に存在し、複数の人格が本人の行動を統制する症状
3. 離人症性障害:
自分の精神や体から遊離して、外部の傍観者のように自分自身を眺めている感覚を持つ症状
4. 解離性昏迷:
随意運動や発語、光や音、接触への正常反応が減少または消失し、ほとんど動かなかったり、座ったままでいたりする状態が続く症状
5. トランス:
人格同一性の感覚が消失し、身のまわりの認識や関心が薄くなる症状
6. 憑依(ひょうい)障害:
幽霊や神仏などの他者に憑りつかれていると思い込む症状
7. 解離性運動障害:
運動能力が失われ、協調運動ができなくなる、人のサポートなしでは立つこともできない症状
8. 解離性知覚麻痺、知覚脱失:
皮膚感覚や視覚、聴覚や嗅覚が部分的に麻痺する、または完全に脱失する症状
9. 解離性転換障害:
突然昏睡状態に陥ったり、意識を失ったりする症状
10. ガンザー症候群:
はっきりしない受け答えや、前後の状況と関連しない的外れな会話をする症状
解離性障害の原因
解離性障害を発症する大きな原因としては、心的外傷が挙げられます。心的外傷とはいわゆる「トラウマ」とも呼ばれ、表面上は分からなくても心の奥底に抱えている大きな傷のことです。
例えば、幼少期に親から身体的・性的な虐待を受けたり、愛情をしっかりと与えられたりしなかった場合などは、心的外傷を負う可能性が非常に高いと言われています。その影響で、解離性障害に陥ることもあるのです。また、戦争や災害など突然の大きな恐怖がきっかけになるケースも少なくありません。
大きな恐怖を慢性的に感じると、人は自分の経験として認識するのではなく、他人がそうした状況に置かれているのだと思うようになります。こうすることで、ストレスに対応しようとするのです。一般的に、私たちは1つの出来事が生じた際に、身体的な感覚や思考状況などを1つの経験として感じ取るしくみを持っています。しかし、解離性障害の人は自分にとって大きすぎる苦痛から逃れるために、1つの感覚として認識せずに、自分から分断することで対処しようとするのです。
解離性障害の検査方法や診断
解離性障害にはさまざまなタイプが存在し、症状の現れ方も異なるという特徴があります。そのため、検査や診断を慎重に進めて行かなければなりません。大切なことは、解離性障害のタイプを見極め、その症状に合った効果的な治療を行うことです。
解離性障害を診断する上では、解離に関連した症状を詳細に聞き取ることから始まります。しかし、解離性障害では、本人が病識を持っていない場合も少なくありません。そのため、本人だけではなく、周囲の人からの情報も参考にしながら慎重に進める必要があります。また、解離の症状が身体的な原因から生じていないかどうかも考慮します。
身体的な原因を除外するためには、MRI検査や脳波検査、薬物使用の有無を調べる血液検査が必要です。そのうえで、問診などから集められた情報を元に、DSM-5などの診断基準に照らし合わせて、診断を確定していきます。さらに、解離性障害の診断の際には、同じような症状をきたす器質的な疾患も除外しなければなりません。例えば、頭部外傷をきっかけに症状が出現しているケースもあるため、外傷歴の聞き取りも欠かさず行うことが重要です。
解離性障害の治療方法
解離性障害の発症は、主に心的外傷が深く関連しています。そのため、心理(精神)療法を中心として治療を進めます。まずは、自分自身の症状について言葉で表現しながら、病気に対する理解を深めていくところからスタートするのが良いでしょう。この過程を通して、本人が症状に関する対処方法を身につけていくのです。
解離性障害の治療は、長期にわたる場合が多いとされています。それゆえに、患者さん本人と医療従事者の間で信頼関係が築かれていることが大切です。
残念ながら、解離性障害を根本から回復させることの出来る治療薬は存在しません。しかし、必要に応じて不安感やうつ状態を緩和させるために、「抗うつ薬」などが導入される場合もあります。
解離性障害の患者さんが意識することや周囲の人の接し方
解離性障害の患者さん本人が、治療中に意識した方が良いことを覚えておきましょう。また、周囲の人が解離性障害の人に対する接し方についても説明します。
1.患者さん本人が意識すること
患者さんが病気の詳細をしっかりと意識しないかぎり、効果的な治療を行っても病状が長引くケースがあります。そうなると、患者さん本人が大きな影響を受けたり、辛い気持ちが強くなったりするため、以下のポイントに注意してください。
- 同一性障害(多重人格)に関する書籍や雑誌などを読んだり、テレビを見たりするのは控えましょう。なぜなら、影響を受けやすくなるからです。
- 宗教的またはオカルト的な領域には、接触しないようにしましょう。
- 入院、通院先などで、他の解離性障害の患者さんとの距離が近づき過ぎないように心がけてください。
- 飲酒や薬物に手を出さないようにしましょう。
2.周囲の人の接し方
周囲の人の関わり方が原因で、患者さんを余計に混乱させてしまう場合もあります。それにより、患者さんの回復を妨げる可能性も否定できません。周囲の人も、以下の事柄に気を配ることが重要です。
- 「解離性障害」の特徴について、しっかりと理解してください。
- 解離性障害の患者さんと一緒に、解離の世界に入り込まないように意識しましょう。
- 解離性同一性障害の場合は、交代人格の年齢や性別、性格などをある程度記録しておき、過不足なく対応するのを心がけることが大切になります。
- 交代人格を無視しないようにしましょう。
- 気づかないふりをしないようにしてください。
- プレッシャーを与えないように配慮しましょう。
まとめ
解離性障害は、通常は統一されている物事が、頭の中でそれぞれに分断される疾患です。例えば、記憶が抜け落ちてしまうなど、生活に必要な情報が患者さん自身も思い出せないケースが日常的に起こります。そのため、周囲の人との関係性に亀裂が生じる場合も少なくないので、早めに問題に気付くことが何よりも重要になります。また、心的外傷が主な原因のため、根気強く恐怖を癒していく治療が大切です。
最近の当センターの研究の成果から、解離性障害は、親子のコミュニケーションの視点から見たときに、解決策を考えやすいことがわかってきました。子どもは症状を通じて、コミュニケーションをしているのです。症状を必要としないコミュニケーションを構築してあげることで症状が綺麗に消えていくケースがたくさんあることがわかってきています。ただ、症状が激しく親を振り回す傾向が強い人の場合は、効果を上げにくい場合もあります。