警察白書の「少年による家庭内暴力の対象別状況(令和元年)」によると、家庭内暴力の総数は3,596件とのデータが示されました。なお、暴力の対象は母親が60.8%を占めており、続いて父親が11.2%となっています。これ以外にも、通報せずに耐えている家庭も多く、実際にはもっと数が多いと予想されています。
家庭内暴力は、外からは気づきにくく、解決に向けて動き出すためには専門機関などとの連携が必要です。この記事では、家庭内暴力について詳しく解説します。
目次
家庭内暴力とは?
家庭内暴力とは、一般的には家庭内で子どもが親に振るう暴力のことです。ただし、広い意味では家庭内で起こる家族間の暴力のことを指すため、暴力を受ける対象者によって呼び方が異なります。例えば、配偶者間の暴力はドメスティックバイオレンス(DV)と呼ばれており、配偶者暴力防止法(DV防止法)が2001年に施行されています。また、親が子どもに対して行う暴力は児童虐待と呼ばれ、児童虐待防止法が2000年に施行されています。
※この記事では、子どもが親に暴力を振るう家庭内暴力について述べることにします。
家庭内暴力はなぜSOSを出しづらいのか?
家庭内暴力で悩んでいるご家庭の数は、警察が発表している件数より遥かに多いと考えられます。しかし、それらのご家庭は外部に助けを求めずに、家族のなかだけで耐えることを選んでしまっているのです。なぜなのでしょうか?
その理由として、家庭内暴力にはSOSを出しづらい原因がいくつかあるからだと考えられます。
1.密室性
まず、家庭という場の密室性の高さが影響しています。暴力が発生しているのは家のなかであり、外部の人間に暴力現場を見られることがあまりありません。怒鳴り声やガラスの割れた音などで、近隣の方が気付くこともありますが、暴力を振るっているその場に遭遇することは少ないでしょう。また、子ども本人も外で暴力を振るうことは滅多になく、必ず家のなかで暴れます。つまり、家庭内暴力は密室で行われる暴力であり、外から確認することが難しいのです。そのため家族の誰かがSOSを出さない限り、発見されないまま暴力が長期化していってしまうことが珍しくありません。
そして暴力を振るう子どもの多くは、家に第三者が入ることを嫌がるため、外部の人間が家に入ることもなくなり、どんどん密室性は高まっていく一方になります。
2.本人の社会的繋がりの乏しさ
家庭内暴力を振るう子どもは、その多くが不登校であったり、引きこもりであったりします。それゆえ、家族以外との人間と接する機会が圧倒的に少なく、親だけとしか人間関係を持っていないこともしばしばです。すると親と子だけの、密着した二者関係ができあがる場合があります。外部との繋がりが全くない関係です。その関係が長く続くと、どうにも離れられない状態に陥ってしまい、子どもは親に執着する、親は誰にも相談できない、そういった状況になってしまいます。
3.親に対する恨み
親に暴力を振るう子どもは、親に対する恨みを持っていることが少なくありません。今、自分が苦しい状況に陥っているのは親のせいであると考え、そこに非常に執着してしまっているケースが多く見受けられます。例えば「お前らの育て方が悪かった」と親の養育方法を咎めたり、「あの時のお前らの言葉で傷つけられた」と過去の失言を責めたりすることがあります。すると親は自分たちが悪かったのだと罪悪感を感じて、子どもに対して逆らいにくい心理状態になってしまい、より一層SOSを出しづらくなってしまうのです。
家庭内暴力を相談できる窓口
家庭内暴力を家族だけで解決しようとするのではなく、専門機関に相談してみましょう。ご家庭にあった専門機関に出会うのは骨が折れるかもしれませんが、見つからない場合は、下記のような窓口で紹介してもらえる可能性があります。
1.各都道府県の精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは精神保健福祉法によって、各都道府県に設置することが義務づけられている専門機関です。政令指定都市にも設置されているので、大阪府の場合、大阪市と堺市にも精神保健福祉センター(こころの健康センター)があります。精神保健に関する専門家が在籍しており、ご本人だけではなくご家族からの相談も受け付けています。
2.児童相談所
児童相談所は児童福祉法によって定められた専門機関です。児相と呼ばれることもあります。各都道府県および政令指定都市には必ず1カ所以上設置されており、中核市にも設置することができるようになっています。原則18歳未満の子どもに関する相談を受け付けており、ご本人、ご家族、学校の先生、地域の方々など、どなたからでも相談できます。
3.市町村の保健センター
保健センターは地域保健法によって設けられている専門機関です。市町村に設置されているため、より身近な機関です。乳幼児から高齢者まで幅広く、人々の健康に関する事業やサービスを実施しています。そのなかで保健師などの専門家が、子育てに関する相談を受け付けています。
4.役所の児童福祉課
お住まいの地域にある役所の児童福祉課に相談に行くことができます。子どもに関する様々な相談を受け付けており、解決に向けての支援を行っています。
5.児童家庭支援センター
児童家庭支援センター(こども家庭支援センター)は児童福祉法によって設けられた専門機関です。地域の子どもに関する相談を、ご家族やその他の方々から受け付けており、専門的な知識や技術が必要なものについて助言や指導を行っています。各専門機関(児童相談所や児童福祉施設など)との連絡調整をする役割もあります。
6.ひきこもり地域支援センター
現在、お子さんが引きこもり状態にあって悩まれている場合は、ひきこもり地域支援センターに相談してみるのもよいでしょう。ひきこもり支援コーディネーターが引きこもり状態にあるご本人、ご家族などからの電話相談に応じています。
上記のような窓口に相談すると、医療的な支援が必要だと判断された場合は、医療機関とも連携を取って対処してもらえるでしょう。
家庭内暴力に対する対処法
子どもが家庭内暴力を行った時は、家族だけで何とかしようとしがちです。しかし、対処が遅くなればなるほど問題が大きくなる場合が少なくありません。家庭内暴力に対しては、可能な限り早期に対処することが大切になります。
一方、子どもが外部に相談することを極端に警戒することもあります。
本人の言うことを尊重しつつ、できれば、本人の納得も得て、相談したいものです。子どもの落ち着いた時に、話すと納得してくれる場合もあります。
また事前に、「どうしようもない時は、外部に相談するかも」と伝えておくだけで、勝手に相談したと不信感をもたれる度合いが減る可能性があります。
・本人が落ち着くまで様子を見る
軽症の場合、子どもが興奮している状態では、何を行っても逆効果になりやすいので、安全な距離を保った状態で子どもが落ち着くのを待つのも重要です。その後、落ち着いたタイミングで、話が出来るかを見極めてください。
もし、子どもが落ち着いた状況が作れたなら、本人の話しやすい内容で少しずつ会話できるとよいでしょう。ただし、無理に本音を引き出そうとするのはやめて、他愛ない日常会話ができる関係をまずは目指しましょう。
重症の場合、その場面にどう対応しようかと考えても、黙っていれば何か言えと言われ、何かを言うと本人を刺激して逆効果に至るということがよくあります。なかなか難しい場面ですが、当センターでは実は荒れていない時にこそ手を打つことが大事だと考えています。」荒れていない時に、子どもとの関係を調節することで、本人の興奮状態が少しずつマシになってきます。しかし、この技法を採用しているところは、まだ極めて少ないと思われます。
・壊れた家具などはそのままにしない?
二つの異なる考え方があります。
- 子どもが暴れて家具を壊したり、壁に穴をあけたりすることがあると思いますが、その壊れた家具などを修理せずそのままにしておくことは、暴力へのハードルを下げてしまうことになります。なので必ず修理するようにしましょう。
また、修理する際は、家に業者に来てもらうようにするとよいでしょう。前述した通り、本人は外部の人が家に入ることを嫌がります。家の物を壊すと外部の人が来るということを、本人に伝わるようにすると、暴力の抑止力にはなると思います。 - そのままにしておいた方がいいと言う考え方もあります。自分のやったことを冷静になった時に振り返られるようにするという考え方です。また、毎回修理していたら大変だということもあります。
一番大事なのは、本人さんの様子を見てお子さんにはどちらの対応があっているか判断することです。どちらにしたとしても、決定的な違いはないと当センターは考えます。
・避難した際は電話連絡をする
暴力がエスカレートして、家から避難しなければならない時もあります。しかし急に避難するのではなく、「次暴れたら家を出て行くからね。でも見捨てるわけじゃないからね」と本人に予告しておく方法もあります。突然親に出て行かれた場合、本人の“見捨てられ不安”がより強まってしまう可能性があるからです。
また、避難した先から本人に電話連絡することが重要です。避難して関係を切ってしまうのではなく、避難したところから本人との関係の再構築を図るのです。その時どのように本人と話すかは、関係の再構築を図るためのアドバイスができる専門家がいれば理想的です。
・信頼できる第三者に相談する
家庭内暴力は、外からは発見しづらく長期化しやすいという特徴があります。表面化した時には、子どもも家族も疲弊してしまっている場合も多いので、助けを求められる時に出来るだけ早く信頼できる第三者に相談するようにしましょう。
まとめ
家庭内暴力は、一番身近な家族が暴力の対象になり、外からは発見しづらいので長期化してしまうケースが多いものです。また、原因も複数が絡み合っている場合が多く、簡単に解決できないこともあるでしょう。そのため、家族だけで解決しようとせず、早めに専門機関に相談し、適切な対処を行うのが重要になる一方、専門家がまだ少ない現状があります。