強迫性障害とは?

強迫性障害とは

強迫性障害とは、神経症性障害の種類のひとつです。強迫性障害に陥ると、自分自身の気持ちに反して、特定のことが頭から離れず、何度も同じ行動を繰り返すといった症状が見られます。この記事では、「強迫性障害の症状」や「強迫性障害の原因」、「強迫性障害の治療法」について解説します。

強迫性障害とは?

強迫性障害(OCD)の特徴と症状

強迫性障害は、“自分でもつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れず、わかっていながら何度も同じ確認などを繰り返す疾患です。

50人のうちの1人が、生涯に1度はこの疾患に苦しめられるというデータもあります。男性にも女性にも起こり得るものですが、男性の方が子ども時代に、女性の方が成人してから生じやすいという特徴があります。

また、強迫性障害は、うつ病と非常に深い関係があると考えられています。うつ病を抱える人が強迫性障害にも苦しめられる割合は、60%程度だとされており、精神疾患を持っていない人が強迫性障害に悩まされる割合とは、比較にならないほど多いのです。 また、うつ病ほどではありませんが、社交不安障害などを患っている人の場合も、強迫性障害に悩まされやすくなります。

1.強迫観念

強迫性障害の症状には、「強迫観念」と「強迫行為」があります。 強迫観念とは、「著しく強い不安感」「つまらないとはわかっていても、頭から離れない不合理な考え」を指す言葉だと考えるとわかりやすいでしょう。例えば、外出時に家のカギを閉めたかどうか、ガスの元栓を閉めたかどうかが気になりすぎてしまったり、まったく汚れていないにも関わらず手が汚れているかのように感じたりする状態を言います。

このような感情自体は、強迫性障害を抱えていない人でも芽生えることがあるものです。しかし、強迫性障害の症状としてこの強迫観念を抱えている人の場合は、その不安感が強くなりすぎて、日常の生活に支障が起きるような状態が生じます。

2.強迫行為

「強迫観念」と密接に関わる症状として、「強迫行為」があります。 強迫行為は、強迫観念によって引き起こされる「行動」のことをいいます。例えば、外出の際にカギやガスの元栓の閉め忘れが気になって、出先から何度も家に戻ったりするケースがあります。また、細菌が感染すると思い込み、何度も何度も手を洗いすぎてしまう場合も少なくありません。しかし、このような行為が続くと、「何度も家に戻ってしまうため、会社に遅刻した」「手を洗う時間が長すぎて、手に湿疹が出てしまった」などのような状況に陥る可能性が高いのです。

この「強迫観念」と「強迫行為」は、本人の意志とは関係なく発生することが多いといえます(強迫行為は出ないが、強迫観念だけがあるというケースもあります)。本人も「これはくだらないことだ」「周りから奇異の目で見られてしまう」とわかっていながらも、このような考え方や行動を取り払ったり、止めたりすることができなくなってしまうのです。

また、この疾患は「人から変に見られる」「強迫行為を繰り返して時間を取られ、人との約束に遅刻してしまう」と不安に思い過ぎることから、社会性や人間関係が失われてしまう場合もあります。

強迫性障害(OCD)の原因

強迫性障害の原因は、未だ特定されていませんが、周りの人との関わり方や生活の変化(結婚・妊娠・大切な人との死別など)、仕事や学校で感じるストレスが強迫性障害の引き金になっているケースは多いといえます。 ただ、「このようなストレス下にいる人は必ず強迫性障害になる」「このようなストレスを抱えていない人は絶対に強迫性障害にならない」というものではありません。

強迫性障害は、患っている本人もつらいものですが、それを支える家族もストレスを抱えてしまうものです。強迫性障害を患った場合、本人も家族も「あのときのあの言葉がいけなかったのではないか」「あのときのあの行動が原因ではないか」などのような気持ちにとらわれてしまうことがよくあります。

しかし、強迫性障害は「特定の誰かの、特定の言動」にだけ原因を求められるものではありません。それを認識し、過度に自罰・他罰的な考えに縛られないようにすることが大切です。

強迫性障害(OCD)の原因

強迫性障害(OCD)の治療法

強迫性障害は、時に健全な社会生活を送ることさえも妨害してしまう疾患です。また、本人も家族も苦しい思いをする場合が多くあります。

しかし、強迫性障害に対する治療法は、きちんと確立されています。強迫性障害には「薬物療法」と「認知行動療法(心理療法のひとつ)」の2つが非常に有効です。また、この2つの治療は単独ではなく、組み合わせて行っていくのが良いとされています。

1.薬物療法

強迫性障害に悩まされている人の場合は、まずは自分の強迫観念を解消する必要があります。なぜなら、強迫観念を解消すれば、強迫行動に出る可能性も非常に少なくなるからです。

強迫性障害の薬物治療においては、SSRIと呼ばれる薬が使用されることが多いといえます。SSRIとは、「セロトニン再取り込み阻害薬」とも呼ばれるものです。幸福感や安心感に影響するセロトニンは体内で生まれますが、これはやがて再びシナプス小胞(神経物質をため込む役割などを持つ器官)に取り込まれてしまいます。しかし、SSRIを使うことで、この「シナプス小胞がセロトニンを再度取り込んでしまうこと」を妨害することができるようになります。それによって、安定した精神状態を維持することが可能になるのです。

このSSRIは、うつ病の治療薬としても使われます。しかし、上記にも述べたようにうつ病と強迫性障害は併発している人が多く見られますし、強迫性障害でもうつ病でも「その人が抱えている不安感」を解消する必要があります。そのため、このSSRIは強迫性障害の治療薬としても効果的なのです。

2.認知行動療法(心理療法)

認知行動療法とは、「人の考え方や物のとらえ方にアプローチして、症状と気持ちを楽にしていく治療方法」のことをいいます。考え方や物のとらえ方が変われば、行動も変わってきますから、精神疾患を抱える人にとっては非常に有効な治療方法だといえます。

強迫性障害の場合には、特に曝露反応妨害法という治療法が出てくるようになって、格段に効果が上がるようになってきました。ただし、本人には粘り強く治療を頑張っていただく必要があります。

強迫性障害の人は何か気になることがあると、そのことをずっと持ち続けていることが耐えられないのです。そこで本人なりの工夫として、手が汚いと感じるならば、気が済むまで手を洗ったり、ガス栓を閉めたか気になれば、何度も何度も確認します。その場はそれでホッとできるのですが、これが癖になってしまいます。2回で済んでいた確認が、10回になったり、100回になったりする場合があるのです。つまり、この本人なりの不安解消法は、当座の不安は解消するけれども、だんだん不安に対する抵抗力が弱まり、ますます泥沼にハマっていってしまうのです。その流れを変えるようにデザインされているのが、曝露反応妨害法です。

例えば「外に出るときはしっかりカギをかける。しかし出先で不安になっても戻らないようにする」「自分自身が『汚れている(※一般的な感覚で不衛生だと判断される物に触った場合などを除く)』と感じても、手を洗わないようにする」などのように心がけていきます。すでに、強迫観念や強迫行為に悩まされている人には辛い作業かもしれませんが、この試みを繰り返し、成功体験を感じることで症状が改善していきます。

3.当センターの治療

当センターでは、曝露反応妨害法が最も効果的な治療法であると考えていますが、この治療に取り掛かるには、本人の意欲や課題をこなす持続力も必要です。 一方、強迫性障害(OCD)の人には、うつ状態も併発していることが多く、本人の意欲を活性化させる事も大事です。本人の持ち味をパワーアップするためには、その人にあった周りの援助も大変効果的です。 本人にまだ治療意欲が少ない場合には、家族療法から当センターではスタートします。

強迫性障害の場合には、特に曝露反応妨害法という治療法が出てくるようになって、格段に効果が上がるようになってきました。

まとめ

強迫性障害は、「自分でも良くないと分かっているにも関わらず、止めることのできない感情に振り回される」「その結果、日常生活に支障をきたすレベルで反復行為を行う」などの大変な症状が現れます。

しかし、強迫性障害は正しい治療を根気よく続ければ、多くの人は症状が改善するといわれています。そのため、強迫性障害になっても、「これで人生が終わる」というわけではないので、前向きに治療に取り組んでいきたいものです。

2022.10.17  

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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