その人のもつ気質や性格からくる著しく偏った考え方や行動パターンによって、日常生活に様々な支障をきたし、本人が苦しんだり、周囲が困ったりしている状態の総称です従来、パーソナリティ障害と聞くと、単純にパーソナリティの障害であると捉えてしまうことがありました。それによって、パーソナリティ障害のことを「その人の性格が悪い」、「その人自体が病的なのだから回復は難しい」と考えてしまう誤解が生じていました。かつてパーソナリティ障害が人格障害と呼ばれていたことも、そのような誤解や偏見を招く一つの原因でした。ここで強調しておきたいのは、パーソナリティ障害は決して性格の問題などではなく、回復も十分見込める疾患だということです。
また、パーソナリティ障害の本人には、病識(自分が病気であると自覚する)がないことが多いです。そのため、実際に医療機関につながった際には、他の精神疾患を併発している場合がしばしば見られます。例えば、うつ病や双極性障害(躁うつ病)、摂食障害、社交不安障害、アルコールや薬物の依存症、自傷行為(リストカット)などで医療機関を受診したけれども、実はその背景にはパーソナリティ障害が隠れていたというケースです。
<パーソナリティ障害の分類>
パーソナリティ障害には10のタイプがあり、それぞれの症状や特徴に基づき3グループに分類されています。
A群:『奇妙で風変わり』なことを特徴とする
◎猜疑性パーソナリティ障害/妄想性パーソナリティ障害
非常に疑い深く、思い込みが激しいため、根拠がなくても、他者の行動や動機を悪意あるものとして解釈する
◎シゾイドパーソナリティ障害/スキゾイドパーソナリティ障害(統合失調質パーソナリティ障害)
内向的で、孤独を好んでいる。他者への関心が薄く、親密な関係になることを避ける。感情表現の幅が狭いため、平板化した表情を示す
◎統合失調型パーソナリティ障害
他者と親密な関係になることに強い不快感をもち、また、そうした関係を形成する能力も乏しい。思考や認知の様式が統合失調症を類似しており、風変わりな行動をとる
B群:『演技的・感情的で移り気』なことを特徴とする
◎反社会性パーソナリティ障害(非社会性パーソナリティ障害)
社会の規範や規則を守ろうとせず、自分の望むことを追い求める。他者の感情に共感を示さないため、傷つけても罪悪感を持たない。良心の呵責が欠如している
◎境界性パーソナリティ障害(情緒不安定性パーソナリティ障害、境界型)
自己像や感情、行動、対人関係が不安定である。他者から見捨てられることへの恐怖があり、それを回避しようと、なりふり構わず努力する。一方の価値を過剰に理想化し、他方の価値を過剰に引き下げるといった極端な他者評価をおこなう。自己破壊的行動に走りやすい(自殺企図、自傷行為、浪費、薬物乱用、過食など)。激しい怒りや抑うつなど感情のコントロールが難しく、また慢性的な空虚感をもっている
◎演技性パーソナリティ障害
他者の関心を集めることや注目を浴びることに、過剰な関心を抱いている。芝居がかったような大袈裟な表現をおこなう。場面を選ばずに、誘惑するような性的行動をとったりする。外向性は強いが、内面性は希薄でアイデンティティの確立が弱いため、他者に影響されやすい
◎自己愛性パーソナリティ障害
自分の価値や重要性を過大評価しているため、他者に対して優越感をもち、常に過剰な賞賛を求めている。他者の気持ちや欲求に共感することが難しく、自分の目的を達成するために、不当に他者を利用する
C群:『不安で内向的』なことを特徴とする
◎回避性パーソナリティ障害
他者から拒絶されることへの強い恐怖があるため、新しい人間関係に対する不安が強い。他者に受け入れてほしいと思いながらも、批判されることや失敗することへの恐れが強く、親密な対人関係を築くことを避ける。自分は劣っている存在だと感じ、社会的引きこもりになりやすい
◎依存性パーソナリティ障害
日常のことを決めるにも、他者からの過剰な助言を必要とする。自信がなく、自分の能力に強い不安を感じている。他者からの支持を失うことを恐れるため、他者の意見に反対することができず、自分の意見が言えない
◎強迫性パーソナリティ障害
秩序や完璧主義、精神および対人関係の統制にとらわれている。几帳面であるが、柔軟性や効率性に欠けている
<原因について>
原因についてはまだ明確には分かっていません。しかし、
遺伝的要因と環境的要因が相互に関係しあっていると考えられています。つまり元々、本人が持っている気質(パーソナリティ障害になりやすい傾向)に対して、環境的要因が作用することで、パーソナリティ障害を発症しやすくなったり、反対に抑えられたりするということです
<治療法について>
パーソナリティ障害の治療では、薬物療法はあくまで補助的なものになり、
治療の主体となるのは心理療法(精神療法)です。
・支持的精神療法
治療者(カウンセラー)が本人の話に耳を傾け、悩みやつらさに共感することでサポートする。治療者は本人が自己の感情を表現するのを促すとともに、問題解決へむけた手助けを行う
・弁証的行動療法(DBT;Dialectical Behavior Therapy)
アメリカの心理学者マーシャ・リネハンによって開発された、認知行動療法の一種。自分では制御できない、激しくつらい感情を抱え苦しんでいる人のための治療法で、特に境界性パーソナリティ障害に有効だとされている
・対人関係療法(IPT;Interpersonal Psychotherapy)
身近にいる重要な他者との現在の関係に焦点を当てる、短期の心理療法。対人関係のパターンの変化を通して、症状の改善を目指していく
・メンタライゼーションに基づく治療(MBT;Mentalization Based Treatment)
Holding mind in mind(こころをこころで思うこと)とも表現されるメンタライゼーション概念から、ピーター・フォナギーらが開発した。自己と他者の精神状態を理解する能力を強化することを目的としている
・精神分析的グループ療法
同じような悩みを抱えた人々を集めて行う、精神分析理論に沿った治療法。各々が自己を語るところに、集団の持つ相互作用の力が働くことによって、症状が改善していくことを目指す
・家族療法(Family Therapy)
1960年代に欧米を中心に発展してきた治療法。家族を一つのシステムとみなし(家族システム論)、本人が示す症状や問題は家族関係などに影響を受けて生じているものと捉える。したがって本人のみを対象とするのではなく、その家族全体を治療の対象と考える。本人に対する適切な対応方法を家族が学ぶことによって、本人が回復していくことを目指す。
<当センターの治療方針>
当センターは家族療法の専門機関となっております。パーソナリティ障害の治療におきましては、いくつか留意していただきたい点がございます。
まず、
ご本人の来所はご遠慮いただいております。パーソナリティ障害のご本人ではなく、ご家族(親御さんおよび配偶者さん)に来所いただきます。そしてパーソナリティ障害の治療には根気が必要です。
ご家族が諦めず、粘り強くカウンセリングに通っていただく必要があります。
次に、
当センターではお引き受けできるケースとお引き受けできないケースがございます。お引き受けできるのは、当センターの家族療法が有効であると判断された場合に限られますので、あらかじめご了承ください。
ご家族からの相談をお伺いした上で、カウンセラーがお引き受け可能かどうか判断いたしますので、一度お電話いただければと思います。