癇癪と癇の強い子について

癇癪とは何かのきっかけで子どもにスイッチが入り、大声で泣き叫んだり、奇声を発して興奮・混乱状態になったりすることを言います。多くは、その時の不快な気持ちや思い通りにならない感情を表現する方法として現れますが、突発的に生じるためにコントロールが難しい場合もあるでしょう。この記事では、癇癪について詳しく解説します。

癇癪の定義や診断について

まず、癇癪の定義や診断についてお伝えましょう。子どもに癇癪が現れた時の具体的な行動には、次のようなものが挙げられます。

  • 泣きわめきながら床にひっくり返る
  • 物を投げる
  • 自分を傷つけたり、頭を物にぶつけたりする
  • 周りにいる人を叩いたり蹴ったりする

癇癪は病気ではなく、生活環境や本人の性質・性格などによって生じるため、原則的には病名として診断されることはほとんどありません。しかし、癇癪を起こす背景に発達障害などの影響が隠れている場合は、医療機関などで適切な対処を行うケースもあります。

また、癇癪はもともと問題行動が多い子どもだけが陥るわけではありません。穏やかで静かに過ごしていた子どもが、突然癇癪を起こす場合もあり、慢性化して過度な状態になると自分自身でもコントロールが出来ずに、突発的な混乱行動が増えていきます。

そのため、子どもの癇癪が疑われた時には、まず日常生活の中で子どもが泣き叫んだり暴れたりする状態を記録し、どのような場面で起きるかなど特徴を把握することが重要です。

癇癪が生じる子どもの特徴

子どもの癇癪には一般的な癇癪のみに見られる特徴と、癇癪を起こす中に発達障害などが影響している場合の特徴とで、分けることが出来ます。発達障害などが関係している場合は、若干表に現われる状態の特徴に違いがあるため、見極める際の参考にしてみてください。

・癇癪の特徴

まず、一般的な癇癪のみの行動の特徴です。

  • 家族や家などの決まった場所でだけ癇癪を起こす。
  • 自分の気持ちを言葉でうまく伝えられない時に癇癪を起こす。
  • 甘えたい時に甘えられない場合に癇癪を起こす。
  • 身近な家族にワガママを聞いてもらえない時に癇癪を起こす。
  • 一気に興奮状態になり、短時間で呼びかけなどによって落ち着く。

上記のような特徴は、ごく一般的な癇癪のみの状態と言えます。子どもは成長と共に、様々な外部からの刺激を受けて、関わる人や環境が増えて行くことで自分の気持ちを相手に伝える手段を学んでいきます。そのような中で、思い通りにいかない時などに、癇癪を起こすのは成長の証とも言えるでしょう。

・発達障害などが影響している場合の癇癪の特徴

次に、発達障害などが影響している場合の癇癪の特徴を以下に説明します。癇癪に発達障害などが影響している場合は、先ほど挙げた特徴とは少し異なる行動が現れます。

  • 場所を問わず、家の外でも突然癇癪を起こす。
  • こだわり行動や自分の中の行動パターンを止められた時に、癇癪を起こす。
  • 一度癇癪を起こすと30分以上泣き止まず、落ち着かない。

上記のような状態が続く場合は、発達障害などが影響している癇癪の可能性があると言えます。一見、同じような癇癪に見えても、癇癪のみの特徴か発達障害などが影響している癇癪の特徴かを見分けることで、原因や対処法なども変わってきますので、特に落ち着くまでの時間など分かりやすい部分から確認すると良いでしょう。

また、発達障害などが関係している場合は、子どものこだわり行動が見られるケースが多いので、普段から物や行動に対するこだわりがないかなどもチェックしておくことが大切です。

癇癪の原因とは

癇癪が起きる原因は、子どもの性格や生活環境によっても多少異なります。そのため、一概に同じ原因で発生するとは言えません。しかし、一般的には子どもの成長段階に伴って、「生理的な原因」「コミュニケーションに関係する原因」「自己主張による原因」「性格や親との関係性による原因」などに分けて考えることが出来ます。

・生理的な原因

癇癪が起こる原因として、特に幼児期の場合は生理的なものが大きいと言えるでしょう。生理的な原因とは、主に空腹や眠気・おむつが汚れているなどの不快な状態を表す手段として、泣いたり叫んだりして癇癪を起こすというものです。

言葉が話せない幼児期の子どもは、このように体全体で不快を表現することで、相手に自分の気持ちや状態を伝えようとするので、ごく自然な癇癪とも言えます。

・コミュニケーションに関係する原因

子どもが成長してきて、他者とのコミュニケーションを図ろうとする年齢になってくると欲求不満や嫌なことを回避したい感情を伝える手段として、癇癪を起こすことが多くなります。

自分にとって、どのような状態が気持ちいいのか、また不快なのかが何となく分かる1歳前後くらいから、このようにコミュニケーションに関係する原因によって癇癪を起こすケースが増えるのです。

・自己主張による原因

3歳前後になってくると言葉をだんだん覚えてきて、他者との関わりも増えてくるため、子どもは自己主張をするようになってきます。いわゆる「イヤイヤ期」とも呼ばれる時期で、苦痛や要求などを癇癪として表し周囲の人に分かってもらおうとするのです。

・性格や親との関係性による原因

癇癪は、言葉が未発達な幼児期だけに現われる状態ではなく、思春期や大人になっても続くケースもあります。本人の生まれ持った性質(気質・発達障害など)や親との関係性などが原因となり、癇癪を起こすこともあるのです。

同じ親から生まれたお子さんでも、一番目の子はすやすや寝てくれる育てやすい子だったのに、二番目の子はなかなか寝つかず、寝たと思ってもすぐ起きてしまう、育児に苦労したという話はよく聞きます。生まれもった気質によって、随分ちがうということが分かります。またそのような子も、どのように育てていくかによって、随分変わってくるのです。

なお、子どもが癇癪を起こした時に親が一方的に押さえつけるような対応をした場合なども、癇癪が長引く原因になるでしょう。

まとめ

癇癪は、突然泣き叫んだり暴れたりするので、親にとってはどうしたら良いのか分からなくなりますよね。しかし、癇癪の原因は子どもの成長に伴って少しずつ変化し、成長の証とも言える現象なので過度に心配することはありません。ただし、中には発達障害などが関係しているケースもあるため、一般的な癇癪の特徴と異なる言動が続く場合は、小児科や専門機関などに相談してみるようにしましょう。

2023.05.17  

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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