対人恐怖症で悩む子どもをもつ親御さんの不安や心配なお気持ち

対人恐怖症の息子さんをもつ親御さんの不安なお気持ちについてお話しましょう。対人恐怖症のせいで外にでにくいとか、人と接するのが苦手といった状態がつづき、そのままズルズルと家にひきこもってしまう子どもさんが多くみられます。そんな状態であっても母親にだけは気を許しているということがよくあります。「お母さんだけは緊張せずに話せる」といった子どもさんの言葉はうれしいのですが、それだけに母親が責任感を感じ「私がなんとかしてやらなくては」と思い不安も心配もふくらんでくるようです。

敏夫の母親が不安と心配を話す

前作で紹介した敏夫君(高二、人の視線が気になってしんどい)のお母さまからの不安や心配なお気持ちです。

◆高校一年のころ、学校から帰ってくると「しんどい、つかれた」といって、自分の部屋に閉じこもることがよくありました。高校の勉強がついていけないのか、それとも部活のバスケット部で練習がきびしすぎるのかな、と思っていました。「どないしたん」って聞いても「ほっといてくれ」ゆうだけで。敏夫から何か言ってくるまで、そっとしておいたほうがいいかなと思って。

でもあのとき学校に行って、担任の先生やクラブ顧問の先生に敏夫のようすをお聞きしていればよかったと、今では反省しています。

◆高校一年の夏休みあけから、学校に行けなくなる日がポツポツでてきました。お腹痛いとか吐き気がするとか言い出して。お医者さんに行こうといったんですけど「いや、だいじょうぶ」って言って。かかりつけのお医者さんで診てもらったんですけど「たいしたことないです。よくある心身症ですね」って、胃炎のお薬がでただけで。「心身症」って言葉、知ってはいましたけど、ピンとこなくて。敏夫のような症状は心のストレスをみるカウンセリングとか心理療法がいいってわかったのも、ずーと後になってでした。なんでもっと早くここに来なかったのかと悔やまれます。

◆「外に出たら、人の目が気になってしんどい」「授業中にあてられて、顔がこわばってなんも言えんかった」「クラスの女の子らが、僕のほう見てわらっとった。どない思われてるんか、気になって気になって」と、ポツポツと私にしんどかったことを話してくれるようになりました。「そうか、そうやったんか」と、聞いてやりました。

「そんでも人って、あんたが思うほど気にしてへんで。気のせいやて。だいじょうぶや」と、敏夫を励ますつもりで言ったんですけど、「お母さんはなんもわかってへん。もうゆわへん」と、怒って部屋に入ってしまいました。たぶん私の対応が悪かったんだと思います。

◆民間のカウンセリングも受けてみたのですが、息子がいやがって行かなくなってしまいました。そこで学校から紹介されたカウンセリング・センターに行ってみました。息子一人だけ部屋に入って一時間ほど話を聞いてもらったようです。どんなことを聞かれたとか、どんなアドバイスがでたのか、息子が話さないので私にはわかりません。親にもなんかアドバイスがもらえるかと期待していたんですが、なにもありませんでした。それでも息子が「通いたい」と言えば、そうするつもりでいたのですが。「行ってもむだや」と言って、いきたがらなかったので、三回行ってやめました。

◆中学時代の友人が二人、ときどき遊びに来てくれてたんですけど、一人は大学をめざして受験勉強中だし、もう一人は特技を生かしたいと専門学校をめざしていました。話しについていけなくてだんだん会うのがおっくうになってしまったようで。今では友人と呼べる人は一人もいません。同年代の人たちとのコミュニケーションがまったくないのが心配です。

◆「僕、これからどないしたらえんや。なんもできひん」と、不安を話します。ときどきですがイライラして物を投げたりします。なんか最近その様子がだんだんひどくなってきました。荒れだしたらどうしたらいいんでしょうか?家庭内暴力とかになるんじゃないかと心配でたまりません。

◆暗く沈んでいるときと、明るい感じで話しているときと、感情のアップダウンがはげしいように思います。暗い感じのときは心配でたまらず、明るいときは、ああよかったと。なんか息子の状態に振り回されているようで、親の私も疲れてきました。

淀屋橋心理療法センターでは母親もカウンセリングに参加

対人恐怖症(対人緊張)の子どもを持つお母さんの不安や心配は、あげるときりがないくらいです。よく聞かれる項目をしぼって紹介しました。たいていはカウンセリングの流れのなかで、お母さまの不安や心配にどう対応したらいいかを説明しながら進めていくのが淀屋橋心理療法センターのやり方です。

またときには家でできる課題をだして、対人恐怖症の改善がみられるか確かめるためにやってもらうこともあります。もちろん子どもさんの様子やカウンセリングの流れをみて出すのですが、母親一人ではとてもできないことでも、カウンセラーと二人三脚なら意外とスムーズにできて思わぬ効果があがることもよくあります。

2010.02.08  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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